終業から始業までに一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」について、政府は今月、2025年までに15%以上の企業が導入する目標を3年間先送りした。過労死防止に有効とされるが、努力義務にとどまることから実績が伸び悩んだ。先送りは2度目。過労死遺族や専門家からは、導入の義務付けなど抜本的な法改正を求める声が上がっている。(竹谷直子)

 勤務間インターバル制度 終業から始業までに一定の休息時間を確保する制度。事業主の努力義務とされ、特にトラックやバス、タクシーなどの自動車運転業には、1日の休息時間として継続11時間を基本とし、9時間を下回らない規制を設けた。医師の一部には今年4月から制度の導入を義務付けた。欧州連合(EU)では1993年、加盟国の全ての労働者に最低11時間の休息時間を与えることを義務付け、労働者が勤務時間外の業務連絡を拒める「つながらない権利」の法制化も広がっている。

◆目標達成できず「間に合わない」と厚労省

 勤務間インターバル制度は睡眠や生活時間の確保を促す狙いがあり、2019年に施行された働き方改革関連法で企業に導入の努力義務が課せられている。  政府は法の施行に先立つ2018年、過労死を防ぐための方針を定めた過労死防止大綱で初めて、導入企業割合の数値目標を「2020年までに10%以上」と掲げた。しかし、厚生労働省の同年の調査では4.2%と達成できず、2021年の大綱では「2025年までに15%以上」に変更。2023年時点でも導入企業は6.0%にとどまり、目標に「間に合わない」(厚労省担当者)ことから、今月に公表した2024年の大綱では2025年を2028年に先送りした。

◆中小企業には「導入の仕方が分からない」

 厚労省雇用環境・均等局によると、従業員1000人以上の企業は17.6%と目標をクリアしているが、規模が小さくなるにつれて、導入率が低くなっている傾向があり、中小企業での導入率がなかなか上がらないという。担当者は「中小企業は具体的な導入の仕方やメリットがわからない上に、労務管理で余力がない話をよく聞く」と話した。  政府は、制度を「知らなかった」企業の割合を2025年に5%未満とする数値目標も掲げているが、2021年から右肩上がりに増え続け、2020年に10.7%だったのが2023年には19.2%まで後退した。今回の大綱で、同じく3年、目標を先送りした。  厚労省の調査では、労働時間が週60時間以上の雇用者の割合が高い産業の多くで、制度の導入企業割合が低かった。過労死弁護団全国連絡会議幹事長の玉木一成弁護士は「インターバル制度の導入がまさに必要とされている企業ほど、導入をしていない。平均的な労働時間が長い企業には、努力義務ではなく義務化させることが必要」と指摘している。   ◇  ◇

◆娘が亡くなり約10年「何で日本はこんなに変わらないの」

 勤務間インターバル制度が定着しない状況に、電通の新入社員で2015年12月に過労自殺した高橋まつりさん=当時(24)=の母幸美さん(61)は「現行法の限界を感じる」と訴える。

高橋まつりさんの写真の前で、勤務間インターバル制度の義務化の必要性を訴える母・幸美さん=8日、静岡県の自宅で(竹谷直子撮影)

 まつりさんは、電通に入社し、本採用となった2015年10月以降、業務が増加。SNSには、連日の深夜残業や徹夜勤務を強いられる様子が記され、「もう(午前)4時だ 体が震えるよ… しぬ もう無理そう。疲れた」との記述もあった。2016年9月、自殺は長時間労働が原因として労災認定され、発症前1カ月の残業時間は過労死ラインを上回る月約105時間と判断された。  幸美さんは「インターバル制度がちゃんとできていたら、まつりは生きていた。今生きていたら32歳。娘が亡くなってもうすぐ10年。過労死はもっと前からあって、でも全然なくならない。何で日本はこんなに変わらないのか」と憤る。  電通の広報は「制度は職務規程にはないが、11時間を努力目標として9割以上の社員が取得できている」と話した。 

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