熱中症の重症化を防ごうと、理化学研究所(理研)発のベンチャーが今春、熱中症のリスク体質を判定する遺伝子検査を始めた。世界初という検査を担う「エスエスダナフォーム」(横浜市)社長の大久保和孝さん(50)は元大手監査法人の幹部。退職後、理研客員研究員として新たな社会課題の解決に挑んでいる。(市川千晴)
熱中症の遺伝体質を判定する検査キット
熱中症は、高温多湿の環境で長時間、屋内外での作業を行った場合などに発症するとされる。徳島大の木戸博教授らの研究で、体内のエネルギー代謝に障害が生じる遺伝子「CPT2」の変異が影響していることも分かっている。◆数日以内にメールで結果
理研の技術を用いた遺伝子検査キットを開発、自社の衛生検査所で検査する仕組みを整えた。口の中の粘膜を綿棒でこすり、容器に入れて郵送すると、数日以内にメールで結果が届く。検体は自前の衛生検査所で判定している
変異型遺伝子の割合は約35%。出勤前に適切な予防策を講じることで、重症化を防げるという。「勤務中の熱中症は労働災害。社員の健康管理に役立ち、犠牲者ゼロを目指したい」と力を込める。◆社長は大手監査法人の元幹部
慶応大在学中に公認会計士試験に合格、大手監査法人に就職した。監査の枠を超えて活動し、経済同友会などに参画。経営トップらとの対話を通じ、コンプライアンス(法令順守)だけでなく経営支援、地域創生などの政策提言も国などにしてきた。2019年に監査法人を退職。コロナ禍に直面し、国の研究機関が開発した基礎技術を社会実装しようと起業を決意した。国の基礎技術を社会課題の解決につなげたいという社長の大久保和孝さん
当時、理研発ベンチャーが精度の高いPCR検査法を開発していたが政府関係者は「技術力は理解するが、検査は国が行う」と一蹴。「経済活動の継続には、検査体制の拡充が不可欠」との信念で、厳しい品質管理が求められる衛生検査所をゼロから開設。民間PCR検査会社の第1号として、手ごろな費用で短時間で結果を提供できる高品質の検査を日本橋で始めた。「メグレナジー」では再エネ由来の水素を製造、蓄電、使用する蓄電システムの試作の開発に取り組む
◆「社会課題の解決に貢献したい」
技術者と顧客を結び商品化し、監査法人時代に培った人脈を生かして自ら全国を回る。経営手腕を発揮し、検査会社に続いて理研発ベンチャーを新たに2社起業した。水素を活用したエネルギーシステムの開発を目指す「メグレナジー」と、最先端のレーザー技術の宇宙での活用を目的とした「スペースレーザーテクノロジーズ」だ。「社会課題の解決に貢献したい思いは、監査法人時代から変わらない。起業して自らそれを実践している」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。