金融政策決定会合後、記者会見する日銀の植田総裁(31日、日銀本店)

日銀の植田和男総裁は31日開いた金融政策決定会合後に記者会見した。要旨は以下の通り。

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 金融市場調節方針は。

 政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標をこれまでの0〜0.1%程度から0.25%程度へと変更した。経済・物価はこれまで示してきた見通しにおおむね沿って推移している。輸入物価は再び上昇に転じており、先行き物価が上振れるリスクには注意する必要がある。こうした状況を踏まえ、物価目標の持続的・安定的な実現の観点から、金融緩和の度合いを調整することが適切と判断した。

 国債買い入れの減額について。

 月間買い入れ予定額を原則として毎四半期4000億円程度ずつ減額し、2026年1〜3月に3兆円程度とする計画を全員一致で決定した。来年6月の決定会合で減額計画の中間評価を行う。中間評価では今回の計画を維持することが基本だが、国債市場の動向や機能度を点検し、必要と判断すれば適宜、計画に修正を加える。同時に26年4月以降の買い入れ方針について検討し、その結果を示す。

 経済・物価の評価は。

 春季労使交渉で前年を大きく上回る賃上げが実現した大企業だけでなく、幅広い地域・業種・企業規模で賃上げの動きに広がりがみられている。消費者物価の基調的な上昇率は、需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから徐々に高まっていくと予想される。

 今後の利上げの考え方は。

 現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、今回示した経済・物価の見通しが実現していくとすればそれに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。

 年内に追加利上げの可能性は。

 データ次第ということになるかと思う。データが見通し通りに出てきて、それがある程度の蓄積になれば当然次のステップに行くということになる。ここまでの利上げの影響についても確認しつつということに当然なる。

 利上げが経済に与える影響は。

 利上げを単体でとれば一部の貸出金利が上昇し、総需要にマイナスの影響がある可能性があるが、背景として賃金や物価が上昇しているので、経済・物価がこれを契機に減速するというふうには必ずしもみていない。(0.25%は)実質金利で考えれば非常に深いマイナスで、強いブレーキが景気にかかるとは考えていない。

 なぜ今回だったのか。

 4月以降のデータがある程度まとまって評価できる時点に達したということかなと思う。少しずつでも早めに調整しておいた方が後が楽になる。

 政策金利はどこまで上げるか。

 中立金利に関して大幅な不確実性があるという点は認識が変わっていない。中立金利のそばまで行ったときにどのへんで利上げをストップするのかという問題は大きな課題として依然として残っている。ただ現状では、その不確実な範囲よりはかなり下にある。

 0.5%以上の利上げもできるか。

 0.5%が壁として意識されるかというと、特に意識していない。

 マイナス金利解除から今回までの4カ月というペースで今後も利上げするか。

 前もって何カ月ごとと決めてパスを思い描いているわけではなく、様々な指標を確認しつつ、ある程度まとまって見通し通りであるということが判断できればそこで次の判断をしていく。

 消費の弱さを指摘する声もあるが。

 個人消費は物価上昇の影響などがみられるが、底堅く推移している。先行きは賃金・所得の増加が個人消費を支えていくと判断した。

 円安が物価に与える影響を考慮したか。

 円安が消費者物価の見通しに大きな影響を与えたということではない。しかし見通しに対して上振れるリスクとしてはかなり大きなものであると評価した。重要なリスクと認識して政策判断の一つの理由としたということだ。

 住宅ローン金利が上昇するのではないか。

 今回利上げをすると(変動金利の基準の)短期プライムレートが場合によっては少し動いて、住宅ローンの変動金利に跳ねることも考えられる。一方で賃金上昇が続く見通しであるということと(5年間は返済額が変わらないという)「5年ルール」がある。5年間賃金が先に上がっていって、その後利払い額が上がるということで、負担もかなり大きく軽減されると認識している。

 利上げは家計にプラスか。

 借り手としての家計は多少のマイナスを被るということだろうが、預金者としての家計は預金金利が若干でも上がることからプラスを受ける。

 中小企業は利上げに耐えられるか。

 一口に中小企業といってもばらつきがあり、注意してモニターしていきたい。ついていけない企業の労働者がより生産性の高い他の企業にうまく移れるような様々な仕組みや努力が続いていくかどうかもモニターしていきたい。

 政府からの利上げを後押しする発言を意識したか。

 あくまで2%目標の持続的・安定的な実現という観点から適切な金融政策のスタンスを今回決定した。政府とは日ごろから緊密に情報交換をしており、経済・物価情勢に関する基本的な認識は共有している。

 国債の減額計画は何を意識して決めたか。

 市場参加者にいただいた意見は反映されている。予見可能性を求める声が強かったことを受けて、買い入れ予定額を具体的に示した。一方で先行きの市場環境への懸念も少なからずうかがわれた。中間評価の実施など国債市場の安定に配慮するための柔軟性も確保することにした。

 日銀の将来のバランスシートの見通しは。

 国債保有残高では約2年後に試算では7〜8%程度減少する。ただこれはまだおそらく長期的に望ましい水準より高い。長期的に望ましい水準がどのへんかということは、他の中央銀行もそうだが現在量的緩和のあと模索状態にあり、海外の例も参考にしつつ段々と見極めていきたい。

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