日銀は18日、金融システムの安定性を評価する金融システムリポートを公表した。短期金利が1%上昇した場合、預金などの利息が増えて家計の金利収支が改善するとの見通しを示した。一方で住宅ローン債務を抱える世帯では金利収支が可処分所得対比で約1%悪化する可能性があるという。
日銀は半年に1度リポートを公表している。今回は日銀が3月にマイナス金利政策を解除してから初のリポートだ。家計や企業、金融機関が今後の金利上昇に耐えうるかを検証した。
家計への影響は、預金金利の上昇による改善効果と、住宅ローン金利の負担増加の両面がある。リポートでは短期金利の1%上昇の影響を試算した。全体の77%を占める住宅ローンを借りていない世帯では、可処分所得対比の金利収支(中央値)が約0.7%改善する結果になった。月の可処分所得が50万円の世帯を仮定すると、月3500円ほど金利収入が増える計算になる。
一方、住宅ローン債務を抱える世帯では金利収支(中央値)は約1.1%悪化する結果だった。同じ仮定のもとでは、月5500円ずつ金利収支は悪化する。日銀の試算では単純化のため、5年ごとに返済額を見直す住宅ローンの「5年ルール」は考慮していない。
家計ごとのばらつきが大きい面もある。年収に対する年間返済額の比率が高い世帯も増えているという。リポートは「所得減少や金利上昇に対するストレス耐性が相対的に低い家計債務者が一部で増えている」と指摘した。
家計部門全体でみれば「景気改善とそのもとでの金利上昇は、家計の所得や利息収支の改善につながる」(リポート)と記した。家計の金融資産残高の5割弱を預金が占めており、利上げ時に利息収入が増える恩恵が大きい。金利とともに賃金上昇も続けば、家計収支はより改善する。
金融機関への影響は「現時点では預金コストが運用収益より先に上昇する可能性が高い」(日銀担当者)と分析した。長年の低金利下で定期預金より普通預金の割合が増え、利上げが利息の支払い増につながりやすい構図になっている。一方で、一部の融資金利の基準になる短期プライムレートは変わらず、国債で運用する際の利回りもマイナス金利解除前後でおおむね横ばいだ。
不動産市場には警戒感もにじませた。都心を中心に「局所的に高額帯の取引が増えている」と指摘し、物件価格の下落などが起きた場合の影響が多くの金融機関に及ぶ可能性があるという。米国など海外不動産市場の調整が日本国内に影響を与える懸念にも言及した。
もっとも、日本の金利はゆるやかな上昇になる可能性が高い。今回は短期金利の上昇幅を1%と仮定したが、マイナス金利の解除は実質的には0.1%の利上げにすぎない。同日佐賀県で講演した日銀の野口旭審議委員は今後の利上げが「他の主要中央銀行の最近の例とは比較にならないほどゆっくりしたものになる」と述べており、当面低金利が続く見通しだ。
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