トヨタ自動車堤工場=愛知県豊田市(共同通信社ヘリから)

トヨタ自動車が、新車の不具合情報に対し原因を特定する前に生産を停止する異例の措置に踏み切っている。生産停止は複数工場でそれぞれ数日間に及ぶ。子会社のダイハツ工業の認証不正を受け、部品取引先を含めた現場に、納期より品質を最優先する原点回帰を浸透させる狙いとみられる。ただ、出荷遅れで顧客の納車待ちが長引く懸念もあり、対応が課題になる。

異例の措置

トヨタは今月4日から、堤工場(愛知県豊田市)と子会社のトヨタ車体の富士松工場(同県刈谷市)の計2つのラインを「生産工程の確認」を理由に停止。1月にも同様の理由で、トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場(宮城県大衡村)と岩手工場(岩手県金ケ崎町)の計3ラインを停止した。

堤工場は「プリウス」や「カローラ」、富士松工場は「ノア」や「アルファード」、東日本の2工場は小型車の「ヤリス」や「シエンタ」などを生産。ライン停止後、トヨタは今月17日にプリウス、1月31日にはヤリスなどのリコールを国土交通省に届け出ている。

通常、不具合情報の調査で生産ラインを完全停止することはない。不具合はリコールの必要のない原因の場合もあり、生産停止はリコール対象以外の車種や取引先にも影響が及ぶ過度な対応となる面がある。

だが、プリウスの場合は3月に後部座席のドアを開けるスイッチの不具合を3件把握して調査を開始。原因を完全に特定する前に、堤工場で生産中のプリウスにも不具合が発生する恐れが出てきた段階で、同じラインを使うカローラを含めて生産停止を決めた。

トヨタの佐藤恒治社長はダイハツやグループの豊田自動織機の認証不正を踏まえ、過度な業務量のひずみや日程目標などの数値にとらわれる働き方を改革する方針を打ち出しており、生産や販売の台数より安心・安全を最優先する同社の基本行動を改めて強く示すため、生産停止に踏み込む経営判断をしたもようだ。

品質と顧客満足どう両立

一方、各工場の影響台数は明らかにしていないが、生産停止は新車出荷の遅れにつながる。現在、トヨタは半導体不足などで受注が積み上がった影響もあり、多くの車種で顧客を待たせている。ホームページでも開示している工場出荷の目途(4月9日時点)によるとヤリスは注文から半年以上後、「カローラアクシオ」は5~6カ月程度、「ハリアー」は3~4カ月程度としており、そこから顧客の手に渡る納車まではさらに時間がかかる。

トヨタは日々の新車の受注状況や生産の進捗(しんちょく)情報を共有できる独自システムを年内に国内のすべての販売車種・販売店に導入するなど、効率的な生産計画や適切な納車予定情報の顧客への提示への取り組みを進めている。

しかし、過度な業務量を見直す働き方の改革では生産現場の稼働時間の抑制や人材育成などに充てる余力づくりも課題となっており、品質と顧客満足度の改善の両立には一段の対策が必要になる可能性もある。(池田昇)

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