厚生労働省は、国民年金(基礎年金)の保険料の納付期間を「60歳未満までの40年間」から「65歳未満までの45年間」に延ばす制度変更を見送る方針です。保険料の負担が増える国民の反発を避けた形ですが、国民年金の目減りが見込まれる中で「将来的に必要」な見直しとみています。どんな内容なのでしょうか。(大島宏一郎) Q 国民年金とは。 A 国民年金は、20歳から60歳未満の全員が加入する制度です。自営業者らの場合、保険料は年齢に関係なく一律で月1万6980円。保険料を40年(480月)納めると、満額で月6万8000円の年金が受け取れます。国民年金に5年間長く加入してもらい、保険料を多く払う代わりに年金を増やす狙いです。

国民年金の納付期間

◆5年で100万円の保険料を追加負担…年間給付額は10万円多く

Q 加入期間が5年延びるとどうなりますか。

A 厚労省が3日に財政検証で示した試算によると、加入期間を65歳未満まで延ばした場合、国民年金に加入する自営業の人や、定年後に就労しない60歳以降の人らに、5年間で計約100万円の追加的な保険料負担が生じます。一方、年間の給付額は10万円ほど多くなる見通しです。 Q なぜ45年にする必要があるのでしょうか。

A 年金の給付水準を底上げするためです。厚労省の資料によると、年金の平均受取額(2022年度末)は、厚生年金(国民年金分含む)が月14万5000円なのに対し、国民年金は月5万6000円にとどまります。関東学院大学の島澤諭教授は、厚生年金に入っていない非正規雇用労働者の現状に触れ「国民年金だけ受け取る人の生活は厳しい。低年金の人の年金を充実させないといけない」と解説します。

厚生労働省

◆再び議題に上がるのは5年後? 課題は財源

Q 見送った制度変更はどうなりそうですか。

A 給付と負担に関わる年金制度の見直しは、5年ごとに財政検証をするのに併せて検討するのが基本でして、再び議題に上がるのは5年後になりそうです。課題は財源の確保です。国民年金の給付額の半分は税金でまかなわれるため、給付額が増えれば追加的に投入する税金も増えます。今回の財政検証でも、将来的に国庫負担が1兆円余り増えると試算されました。給付額が底上げされれば、増税などで追加の財源を確保する必要があり、政治的なハードルは高いと言われています。 

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