厚生労働省は27日、家事代行などを担う労働者を保護するため「労働基準法を適用する方向で具体的施策を検討すべきだ」との考え方を示した。少子高齢化により家事代行で働く人が増加する中、過酷な業務の末に亡くなった家事労働者の女性が労災認定されないなどの問題も発生しており、同省は保護策が必要と判断したとみられる。家事労働者は戦後間もない1947年に労基法が施行された時から同法の対象から除外されることが明記されており、それ以来の方針転換となる。(池尾伸一)

◆雇用主の「家庭」、義務はどこまで

 厚労省は、27日開かれた同省の労基法関係の研究会に方針転換を記すペーパーを提出した。労基法の適用を検討すべきだとの方向性を示した上で、雇用主に当たる家庭にどこまで使用者としての義務を負わせられるかの検討も必要と記載。研究会は近く最終的な考え方を報告書などでまとめ、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の議論を経て、具体的な法制度が決まる。

最終弁論後の支援集会で発言する女性の夫(左)と次男=27日、東京都港区で

 労基法は、1日原則8時間の労働時間上限や、残業代の支給、けがや死亡時は雇用主が補償しなければならないことを明記している。だが、当初から「家事労働者」は対象外。人材会社などに雇われている家事労働者は労基法の対象になるとの通達を厚労省は出していたが、各家庭と直接契約する労働者は法律の保護からの除外が続いている。

◆女性死亡で「除外」規定が問題化

 しかし、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束で1週間働いて急死した女性が労災と認められず遺族が2020年に裁判を起こしたことをきっかけに、「除外」規定が問題化。高齢化の加速や働く女性の増加で、家事代行で働く人が増える中、労働組合や専門家からは「労基法で守られない状態が続けば、被害者が増える」との声が高まっていた。   ◇  ◇

◆夫「国は固定観念で労災認定を却下」

 家事労働者として過酷な働き方をした後に急死した女性=当時(68)=の夫(77)が、過労死認定しない国を訴えた裁判の控訴審の最終弁論が27日、東京高裁で開かれ結審した。原告の夫は最後の意見陳述で「妻は社会に貢献する信念と使命感を持って仕事を続けていた。それなのに国は実態調査を省略し固定概念で(不認定の)判断を下した」として改めて労災認定を主張した。判決は9月9日。  夫は「多くの家事労働者、女性を差別してきた労働基準法が改正されるまで闘う」とも強調。裁判後の支援者集会で、介護福祉士をしている次男(43)も「母の労災認定をきっかけに、介護や家事の労働者の働く環境がよくなることを願っている」と話した。  都内に住んでいた女性は2015年5月、寝たきり高齢者のいる家庭に1週間泊まり込み、24時間拘束で家事や介護に従事した後、急死。しかし、労働基準監督署は労基法が家事労働者を除外していることを根拠に過労死として認めなかった。東京地裁での一審判決は労基署の判断を大筋で支持し、夫は敗訴した。 

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