政府は6月から、森林整備を名目に「森林環境税」の徴収を始めた。東日本大震災後に「復興特別税」として住民税に上乗せされてきた分が切り替わる形で、増税が継続する。防衛増税を巡っても、復興特別税の所得税分を事実上転用することが決まっており、専門家は「看板のかけ替えによって、負担を分かりにくくする『ステルス増税』になっている」と指摘する。(高田みのり)

◆「1000円」加算が6月以降も継続

 復興特別税は、東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するため創設された。所得税分では2013~37年までの25年間、税額に2.1%分を上乗せして徴収。住民税分では23年度分まで年1000円が加算され、今年5月まで徴収されてきた。

都内に住む女性の元に届いた住民税の納付書。「森林環境税」の欄に1000円が計上されている

 ところが、住民税への加算は6月以降も続く。徴収期間の終わった復興特別税に代わって、新税「森林環境税」として徴収されるためだ。同税は森林整備の財源確保が目的で、徴収後は各自治体に配分。負担額は以前と変わらないものの、本来なくなるはずだった税負担が続く。

◆防衛費にも復興特別税の一部を「転用」

 実際、関連法成立直前の19年2月には、野党議員が衆院本会議で「(負担が)そのままなら批判も出にくいだろうという思惑で看板をかけ替えたのでは」などと指摘。これに対し、石田真敏総務相(当時)は「国民の負担感に十分配慮した」と述べた。  開始時期は未定ながら、復興特別税の所得税分でも一部が事実上転用される。5年間で計43兆円を見込む防衛費を賄うため、今まで復興のため上乗せしてきた税率を1%下げる代わりに、新たに1%分を防衛費に回す仕組みだ。課税期間も最大13年延長する。

◆看板をかけ替える安易な「ステルス増税」

 ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「増税による国民の反発や支持率低下を恐れた政府が、既存の増税が終わるタイミングで看板をかけ替えるという安易なやり方で『ステルス増税』を選んだ」とみる。本当に必要な増税なら真正面から議論するべきだったと述べ、「突き詰めれば政治の信頼性の低下に関わる問題」と指摘した。  一方、復興特別税では法人税にも10%が上乗せされていたが、14年に1年前倒しで終了した。そのため、交流サイト(SNS)上では「個人への課税は意地でも下げない」など、批判的な意見が相次いでいる。

 復興特別税 東日本大震災を受けて国が創設した税金。2011年の復興財源確保法などに基づき、所得税・法人税・住民税にそれぞれ加算された。税収は復興費用のほか、国が一時的な借金として11年度から発行している復興債の償還にも充てられている。法人税への加算は、安倍晋三首相(当時)が企業収益の増加を端緒とした「経済の好循環」を訴え、予定より1年早い14年に廃止した。

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◆「徴税ありき」ネット上で批判の声

 今年6月から徴収されている森林環境税は、森林整備などの財源として、各自治体へ配分される。税の徴収に先立ち、国は2019年度から整備資金を配ってきたが、本紙の調査では、資金を全て基金に積むなど使途に困る自治体があることが判明。インターネット上では「徴税ありき」などの批判も上がる。  原則1人当たり年1000円が徴収される森林環境税の税収規模は、年約600億円の見込み。国は税の徴収後、私有林人工林面積▽林業就業人口▽人口—の3点を基準に各自治体へ配分する。

◆本当に必要?全額未使用の自治体も

 本紙は今年3月、関東7都県や政令市など38自治体を対象に、これまで配られてきた整備資金の使用状況を調査。各自治体の19〜22年度決算によると、計約94億円の資金のうち、30%に当たる約29億円が使われていなかった。  自治体別にみると、東京都や川崎市など14自治体が使用率100%だった一方、横浜市やさいたま市のように50%以下の市区も10あった。中でも東京の3区(大田、渋谷、台東)は0%で、いずれも「充当事業を検討中」などとして全額を基金に積んでいた。  総務省と林野庁の調査では、国は19〜22年度の4年間で、全国の自治体に計約1500億円を配分。このうち使われたのは65%にあたる約975億円だった。交流サイト(SNS)「X」では、「未使用になっているのに(森林環境税として)増税される意味がわからない」といった声が上がっている。 

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