東京・西多摩の日の出町は、供養のためお墓に立てる縦長の木板「卒塔婆(そとば)」の一大産地。明治創業の材木店をルーツとする「みやび」も、当地で卒塔婆作りを手がけてきた。しかし供養の風習が変化し、需要は減少傾向に。代わりに活路を見いだしたのは意外にも、チーズの燻製(くんせい)だった。(石川修巳)

卒塔婆製造を手掛ける「みやび」の伊藤雅夫社長=いずれも日の出町で

◆産業の先細りに危機感

 大半を山林が占める日の出町では昔から木材加工業が盛んで、卒塔婆は江戸中期から江戸に売り出すようになったとされる。全国シェアが7割近い地場産業で、卒塔婆の用材を乾燥させる風景は、町の代表的な景観にもなっている。  みやび社長の伊藤雅夫さん(70)によると、祖父が明治35年ごろに始めた材木店で卒塔婆も手がけた。戦後、父が卒塔婆部門を引き継ぎ、伊藤さんは3代目にあたる。関東一円の寺院が主な取引先という。  境内や檀家(だんか)の樹木が電線に接触するなどして、伐採の依頼も請け負うように。事業の多角化を見据えて2000年、伊藤木工所から社名変更した。

卒塔婆の需要が減少する中、活路を見出した燻製チーズ=大多摩うまいもの館で

 「実は当時の調査で、卒塔婆産業は先細りという結果が出て。会社が元気なうちに先手を打とうって」。そこで注目したのが、趣味として楽しんでいたチーズの燻製だった。  ちょうど、戦後に植えられたサクラが寿命を迎えて伐採依頼が増加。伐採後はテーブルに加工したほか、端材をチップにして燻製に使ったのだという。「友人たちに配ったら『欲しい、買いたい』って人が増えてきて」と振り返る。  チーズは北海道産。溶け出すぎりぎりの温度でいぶす製法で、クリーミーな食感が特徴だ。ナッツ類やアワビも燻製にして、町内の直営店「大多摩うまいもの館」などで販売。都心の物産展に出品すれば、売り上げトップの人気という。

◆自分の舌を信じて

 「燻製チップは100%東京産のサクラ。ものすごく失敗したけど、やっぱり自分で食べておいしいからあきらめなかった」。燻製後のチップの灰も農家の肥料に役立てている。

チーズのほかに、ナッツ類や塩、アワビなどの燻製が並ぶ売り場=大多摩うまいもの館で

 一方、コロナ禍で葬儀・告別式が小規模化し、卒塔婆の注文は大幅減。用材のほとんどがウクライナ産だったため、ロシアの侵攻に伴う産地変更などでコスト増も深刻という。「うちは伐採も燻製もやっていたから、ダメージを少なくできた」と語る。  目指すのは、根が入り組んだマングローブのような経営だ。卒塔婆の需要回復は難しいとみて、「事業の根っこをじわじわ増やしていく。一本切られても倒れないように」と決意している。 

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