日銀の植田和男総裁は国債購入の減額が「相応の規模になる」と語った(金融政策決定会合後の記者会見、日銀本店)

日銀が夏場以降、長期国債の買い入れを減らしていく方針を決めた。日銀が大量に抱える国債の残高は徐々に縮小する。事実上の量的引き締め(QT)といえる。

健全な金利形成や財政の信認という観点からも計画的な資産圧縮は望ましい。市場との対話を通じて長期的な展望を確立し、市場の安定につなげてほしい。

14日の金融政策決定会合では政策金利を据え置いた。長期国債の購入規模は7月末に開く次回会合までは現状維持とし、その先は「長期金利がより自由な形で形成されるよう」減らすことにした。次回会合で今後1〜2年程度の具体的な減額計画を決定する。

植田和男総裁は記者会見で、買い入れの減額が「相応の規模になる」と語った。決定まで時間をかける点には「丁寧に市場の意見も聞きつつ、7月に具体策を発表する」と述べ、市場との意思疎通を重ねたうえで本格的な国債購入の減額に着手する考えを示した。

日銀は3月まで11年続いた異次元緩和で国債を大量に買い続けた。保有する長期国債は590兆円規模に膨らみ、発行済み残高に占める割合は2013年当初の1割強から5割超に高まっており、主要国でも異常な状態にある。

日銀が国債を大量に保有したままだと市場の金利形成にゆがみが残る。長い目で財政運営の規律が緩む懸念もぬぐえない。保有資産を徐々に減らして金融政策の正常化に踏み出すことは評価したい。

今回の措置には円安対応の色彩もにじむ。4月の会見では植田氏が円安の影響を軽視している印象を与え、円売りに拍車がかかった。14日の会見では「最近の円安の動きは物価の上振れ要因であり、政策運営上、十分に注視している」と強調した。

政府と歩調を合わせて円安への警戒を示す意味は大きい。ただし円安阻止を目的に一気に資産圧縮を進めると長期金利が急伸し、市場や経済が混乱しかねない。重要なのは、保有国債の適正化に向けた長期的な視点での展望を練り、市場の不安を和らげる工夫だ。

植田氏は追加の利上げを巡っては「見通しにおおむね沿ったデータの出方になっているが、もう少し確認したい」と語り、景気や賃金・物価を見極める考えを示した。ここでも政策金利の最終的な到達点のイメージを広く伝える努力を続けてほしい。結果的に市場の安定への近道になるはずだ。

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