いつ雇い止めに遭うか分からないのに失業給付が出ない―。フルタイムで働く非正規の地方公務員がこんな状況に置かれている。新たな人事制度の導入を機に、失業給付を担う雇用保険に入れない人が増えているとみられるからだ。代わりに支払われる退職金も不十分との訴えが出ており、セーフティーネット(安全網)の整備が急務になっている。(渥美龍太)

◆失業給付なら96万円受け取れたはず

 福岡県の保健所でフルタイム非正規として働いていた男性(53)は、3月末に雇い止めされたが失業給付はなかった。民間企業などに勤めて雇用保険料を累計8年納めたが、県に勤めてから雇用保険から外されたからだ。代わりに受け取った退職金は12万円ほどだった。  失業給付なら最大で計96万円を受け取れた計算になる。離職後に就いた仕事は病気休業者の代替。休業者が復職すると失職する前提だ。「本当は失業給付を受けながら自分に合う仕事をじっくり探したかった」

◆失業リスク低い「正規」と同じ扱い

 福岡県総務事務厚生課は「制度上は失業給付と同等の退職手当を支払うことになっている。(実際の金額が少なかった)理由は分からない」とコメントした。  正規の地方公務員は基本的に解雇されず失業リスクが低いため、雇用保険に入れないことが法律で定められている。代わりに支払われるのが退職金だ。フルタイムの非正規も正規と同様の取り扱いを受けている。  2020年、非正規地方公務員の人事制度「会計年度任用職員制度」が導入された。総務省の制度マニュアルによると、退職金が支払われることになれば雇用保険から外される。

◆「非正規はフルタイムでも雇用は非常に不安定」なのに

 労働組合、自治労連の嶋林弘一氏は「会計年度任用職員制度の導入後、雇用保険からの適用除外が増えた」との見方を示す。名古屋市のフルタイム非正規で十数年働く女性も、同制度の導入時に「離脱させられた」。「30年以上払った雇用保険料は無駄になったし、同様に離脱させられた100人ぐらいの職場の仲間も皆怒っている」と明かす。  フルタイム非正規は昨年4月時点で15万人ほどいる。公務非正規女性全国ネットワーク共同代表で、埼玉大の瀬山紀子准教授(社会学)は「正規と違って非正規はフルタイムでも雇用は非常に不安定であり、雇用保険がない状況はおかしい。退職金の額も不十分だ」と指摘し、「国は現状を早急に調査した上で雇用保険に入れるべきだ」と話す。

 雇用保険 政府が運営する公的保険として、労働者の雇用や生活の安定を担う。代表的な役割が失業給付で、失業者は次の職を探すまで、離職前賃金の45〜80%を90〜360日給付される。受給には、離職日以前の2年間に12カ月以上、被保険者期間があることが必要。財源は労使が負担する保険料と国庫補助でまかなわれる。週20時間以上働く民間労働者は強制加入で、公務員のパートタイム職員も加入する。

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◆「退職金でカバー」の前提が守られず

 地方公務員に失業給付が出ないのは、退職金でカバーすることが前提になっているからだ。法律の内容を解説する「逐条地方公務員法」は、「職員が離職後失業しているときは、地方公共団体は退職手当の形で失業給付に相当する額を支給しなければならない」と自治体の責務を明記する。

「逐条地方公務員法」の記述。自治体職員が失業した場合、退職手当で失業給付相当額を支給するよう記している

 しかし埼玉県狭山市で22年間図書館司書を務めた60代女性が、フルタイム非正規だった23年3月末に雇い止めに遭った際の退職金は、失業給付ならば受け取れた額の半額にとどまったという。「失業給付の相当額は退職金で支払われると聞いて問い合わせたが、全く補塡(ほてん)されなかった。17年納めてきた雇用保険料も無駄になったし、どう考えてもおかしい」と市に対して割り切れぬ思いを語った。  非正規公務員の問題に詳しい立教大の上林(かんばやし)陽治特任教授(公共政策学)はフルタイム非正規の退職金が少ない事例があることに「自治体が(失業給付分をカバーする)退職金の制度を適切に運用していない可能性がある」と指摘している。 

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