前回のコラム「日経平均が再び4万1000円を超えたらどうするか」(3月29日配信)では、日経平均株価について「4万1000円以上では積極的に買いたくない」とした。
これは急上昇後の短期的な調整局面も想定されたことから、高値圏での買いはなるべく控えたほうがいいとの判断からだった。実際、その後の日経平均は4月1日にザラバで4万0697円の高値をつけたものの、同月19日には同3万6733円まで下落、5月に入っても4万円を回復できずにいる。
今年の日経平均高値を4万1000円とする「2つの根拠」
今回のコラムの結論を先に言えば、日経平均は「上値4万1000円、下値3万5500円のレンジ相場に移行」しており、「3月22日のザラバ最高値4万1087円(終値4万0888円)が今年の高値になった可能性が大きい」とみている。なお前回までの上値予想は4万2000円だったが引き下げ、想定レンジは「上値4万1000円前後、下値3万5500円前後」に修正する(下値予想は不変)。
なぜ今年の日経平均の高値を4万1000円とするのか。1つ目の理由は米国株(S&P500種指数や、NYダウ、ナスダック総合指数など)の上値が重くなっており、年後半(7~12月)には株価が下落する可能性が高いとみているからだ。
この根拠は、(1)テクニカル(チャート)面から見て株価の上値が重くなっている、(2)企業業績と株価、具体的には予想EPS(1株当たり利益)とPER(株価収益率)の推移の関係による。
まずテクニカル面をみると、日経平均は3月22日のザラ場高値4万1087円から4月19日のザラ場安値3万6733円まで4354円下落して、年初(1月4日ザラ場安値3万2693円)から急上昇した上昇相場が大きく崩れてしまった形になっている。
株価上昇によって、世界のAI・半導体銘柄の今後の業績予想(ガイダンス)への期待値(ハードル)が想定以上に高まり、その高すぎる期待値を少し下回っただけで売られ、株価が急落した銘柄が目立った。
直近では、株価下落で期待値が下がるなかで、日米のAI・半導体関連銘柄の今後の業績予想については、まだら模様ながらも好感する形で、一部ハイテクの株価は反発している。だが、今後は3月の高値近辺で購入、含み損失を抱えた投資家の「やれやれ売り」が控えており、上値は重いはずだ。
また、株価上昇には予想PERの上昇が必須だ。だが米国株や日経平均の予想EPSは伸び悩んでいる。しかも年後半にかけて、日本は追加利上げ観測、アメリカでは市場が期待していた年2~3回の利下げ機運が低下しており、予想PERの上昇は厳しい環境にある。
為替も円高方向へ、円安による上方修正期待剥落の懸念
2つ目の理由は、為替のドル高円安がさすがに止まったとみていることだ。ドル円相場は円買い介入があったとされる1ドル=160円が高値となったもようだ。今後、年後半にかけては日米の金融政策の方向性などから日米金利差縮小が緩やかに進み、ドル高円安が修正されるとみる。これによって、当面は円安恩恵企業の決算に対するさらなる上方修正期待が剥落するとみている。
まず、日銀は年後半のどこかで利上げするとみている。利上げの可能性は7月から9月が高いのではないか。
なぜなら①賃上げ効果が発現、実質賃金のプラスが明確となる(3月までは24カ月連続でマイナス)、 ②現在マイナスの需給ギャップがプラスに転じる、 ③上記の①と②によってデフレ脱却宣言が7月から9月の間に行われる、 ④インフレ率は2%前後で推移する、 ⑤サービス価格は現在の前年比+2.2%程度で推移する、など、日銀が利上げの前提条件としているいくつかが満たされる可能性があるからだ。
一方、アメリカではFRB(連邦準備制度理事会)は4月30日~5月1日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の据え置きを決めた。声明文で利下げ開始の後ずれを示唆した一方で、ジェローム・パウエルFRB議長は追加利上げについては「可能性は低い」と発言したように、同国の金利は上限に近いと思われる。
今後の焦点は次回FOMC(6月11~12日)で示される経済見通しだ。これはFOMC参加者が政策金利などの見通しを3カ月に1回明らかにするものだが、年内の利下げ回数が3月時点での年3回(中央値)からどれだけ減るかに注目だ。
4月の雇用統計(5月3日発表)では雇用者数や賃金の伸びが市場予想を下回ったことで、一時は過熱感まで指摘された労働市場への警戒感は薄れ、FRBの利下げ開始が一段と先送りになるとの観測は後退している。「FRBは遅かれ早かれ利下げに踏み切る」とみる投資家は再び増えており、やはり日米金利差が縮小するタイミングが近づいているようにも見える。
こうしたことから、年後半は、日経平均はどちらかというと上昇よりも下落リスクが高まる。下落した際の下限レンジは3万6500円~3万5500円をメインシナリオとして想定している。
6月末までには再度4万円~4万1000円へ上昇も?
ただ、短期的(6月末まで)には日経平均は再度、想定上限レンジの上限である4万円~4万1000円まで上昇する可能性が高いと予想している。その主な理由は、米国株が足元の決算発表の中身(業績予想や株主還元など)を確認しながら、ジワジワと反転上昇を続けていることだ。
アメリカのナスダック総合指数は日経平均と連動性が高いことで知られるが、そのナスダックで構成比率が高い「マグニフィセントセブン」と呼ばれる米大手テクノロジー企業7社の決算は、すでにエヌビディア(5月22日発表予定)を除いて6社が終了している。
EV(電気自動車)大手テスラの決算が約4年ぶりに減収減益となるなど、すべてが市場の高い期待通りではなかった。だが、結局は6銘柄に対する今後の業績拡大期待や株主還元(自己株買いや増配など)は根強く、足元では反転上昇、ナスダックもテスラの決算前の4月19日から反転上昇基調だ。
もちろん、今後の当面のヤマ場は、前出のエヌビディアの動向だ。発表当日前後までは、AI・半導体関連相場の期待の星である同社株が牽引する形で、堅調な値動きが続く可能性が高そうだ。
もし、同社決算や今後の見通しが市場参加者の高い期待を超えることができれば、同社株やナスダック総合指数は6月末にかけてさらに上昇、史上最高値(それぞれ3月8日の974ドル、4月11日の1万6442ポイント)を更新する可能性もあるとみている。
なお、日本企業の半導体などハイテク企業の決算発表も大半が終了。あとは14日のアルバックや、大御所のソニーグループなどを残すのみだ。22日のエヌビディア決算発表まで「株価上昇のバトン」をつなぐことができるかが、注目される。
今後は「円高メリット銘柄」や「低PBR中型株」に注目か
では、最後に今後の物色動向を考えてみよう。年後半に為替が緩やかに円高に向かうならば、「円安メリット銘柄」への投資比率を減らし、「円高メリット銘柄」へ投資することも検討したい。
これを考えるうえでではNT倍率に注目するのがよさそうだ。というのも、同倍率は、円安メリット銘柄の構成比率が高い「日経平均株価(N)」が分子、円高メリット銘柄の構成比率が高い「TOPIX(T)」が分母となっているからだ。倍率が大きくなればなるほど、日経平均がTOPIXに対して相対的に上昇していることを示す(倍率が低くなる場合はその逆)。
年初からのNT倍率の動きをみると、1月5日(13.94倍)から3月4日(14.82倍)まで上昇したものの、直近(5月9日:14.03倍)と、すでに3月4日をピークに下落傾向であり、年初の水準に戻りつつある。ただ、NT倍率の2022年からのレンジは、高値14.5~14.8倍、安値13.6~13.5倍だ。これまでの経験では、レンジ上限から下限に3~5カ月でシフトしていることから、NT倍率は今後13.5倍程度まで下落する可能性もある。
もちろん、再度、半導体製造装置などのハイテク株が集中物色されれば、NT倍率はいったん反発する可能性もある。だが、年内、とりわけ株価下落時には、半導体製造装置・半導体関連株の構成比率が高く、円安メリットが大きい日経平均の下落率が大きくなりそうだ。
ハイテク株が日本株を牽引しているように見えるが、実は日本株は2021年初から2024年の現時点まで、約3年半近くもバリュー株(割安株、低PBR銘柄)が、グロース株(割高株=成長株、高PBR銘柄)のリターンを相対的に上回る「バリュー相場」が続いている。
しかも2023年からは「東証の低PBR改革」によって、低PBR銘柄が買われ、バリュー相場が一気に加速した。これによって低PBR銘柄への投資は、徐々にハードルが上がり、PBR1倍割れなどの低PBR銘柄がかなり少なくなったことも事実だ。今後は「低PBR大型株」から「低PBR中型株」へと物色がシフトすると予想している。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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