木々の緑が目にまぶしい季節となった。庭園として佐賀県内で唯一、国の名勝に指定されている神埼市の「九年庵(くねんあん)(旧伊丹氏別邸)庭園」でも秋の紅葉に負けないモミジの若葉やコケの美しい緑がみずみずしさを増している。4~6日の一般公開を前に九年庵を訪ねた。
九年庵は、明治時代に佐賀の実業家、伊丹文右衛門・弥太郎父子が築いた。庭と名前の由来となった茶室「九年庵」(現存せず)の築造に約9年かけたという。面積は約6800平方メートル。九州の庭園研究の第一人者で南九州大名誉教授の永松義博さん(73)に解説を頼んだ。到着すると普段は閉じられている門を県文化課の安部萌花さんが開けてくれた。
入るとすぐ目に飛び込むのが、かやぶき屋根の建物。特別に上げてもらうと、竹を編んだ「網代天井」や松の1枚板による床の間など、趣向を凝らした作りになっていた。この日は雨が上がったばかりで、開け放たれた客間から青々とした緑が見えた。
「藩政期に造られた庭のような歴史的な重みは感じないが、背景の山林と一体化した庭園デザインが秀逸です」と永松さんは言う。
庭を手がけたのは、福岡県久留米市の誓行寺の住職だった阿理成(ほとりりじょう)。散策して楽しむ「回遊式庭園」で、下まで下りて、飛び石が続く順路に沿って歩く。手前にモミジやツツジがあり、見上げたその奥は、まるで山につながっているようだ。
「高低差を利用し、自然環境を最大限活用した空間構成になっています。佐賀平野でここまで立体的な庭はありません」と永松さん。さらに歩くと左手に上下2段になった池が見え「遊び心が感じられますね」と説明してくれた。
「ほらあれ」と言われ、顔を上げると斜面に手すりが見えた。安部さんの案内で順路を外れ、落ち葉を踏みしめながら登る。永松さんは「劇的な変化があり、上から眺めても楽しかったはずです」。同行した、九年庵に隣接する仁比山神社の宮司、朝日晃司さん(88)も「ここから見た庭も良かった。かやぶき屋根が見えてねえ」と話した。
「過去形」なのは、わけがある。今は使われていない小道の先にはベンチもあったが、木々が生い茂って遮られているのだ。庭からも遠く有明海や雲仙普賢岳も望めると聞いたが、今は難しそうだ。また、湧き水の変化からか庭の滝は水が枯れていた。
永松さんは「庭を維持するのはとても手が掛かるのです」と理解を示し「散策しながらぜひ新緑と立体的な空間の変化を楽しんでほしい」と話した。
公開は午前8時半~午後5時。高校生以上は美化協力金として500円が必要。【西脇真一】
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