映画「リンダはチキンがたべたい!」©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA

仏・伊合作で親子や子供たちの日常を描いた長編アニメ映画「リンダはチキンがたべたい!」は、低予算かつ独自のアプローチで高い評価を獲得し、アヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞(最高賞)を受賞した。長編アニメは大量の作画が必要となり、おのずと時間と費用がかかるというイメージを、監督・脚本を手掛けたキアラ・マルタとセバスチャン・ローデンバックは覆した。

「リンダ-」を見て対照的に思い出したのが、高畑勲監督の超大作「かぐや姫の物語」。製作期間は8年。手描き、水彩画風のタッチを再現するため、総作画枚数は通常のアニメの3倍の50万枚を超え、製作費は約50億円とされる。

一方、「リンダ-」は「とにかく時間をかけずに作りたいと思ったので、完成までほぼ2年」(マルタ)、「自由に作りたかったので、あえて低予算、できるだけ少ない人数で製作した」(ローデンバック)という。

監督・脚本を手掛けたキアラ・マルタ(右)とセバスチャン・ローデンバック(水沼啓子撮影)

ローデンバックは「『かぐや姫の物語』と『リンダ-』は内容も目指す方向も、製作工程もすべて違う。共通点があるとしたら、それは一般的なスタンダードなアニメ映画とは違い、抽象的なアート作品のように扱われている点だけだ」と話した。

逆のプロセス

一般的なアニメの製作ではまず脚本のイメージをビジュアル化した絵コンテを作り、その後、アニメーターたちが各カットの原画を描き、最後に動画に合わせてせりふを吹き込む。

しかし、「リンダ-」は逆のプロセスで製作された。まず脚本に沿ってせりふや背景の音を、実際に設定された学校や公園などで収録。声のキャストにも、実写映画で活躍する俳優を起用した。カメラがないだけで、実写映画の撮影現場とほぼ同じだ。

「実写映画の場合、現場で脚本の内容が変わっていく。本作でも実写的な即興性が欲しかったので、現場で即興を許しながら録音することで、音にリアリティーが生まれた。俳優たちにもしっかりと演出をつけた」(マルタ)

アニメーターたちはその録音を聞いてイメージをふくらませながら、自由に動きや色を付けていく。マルタは、その理由をこう話す。

「アニメは制約が多過ぎて自由がないと考えていたので、製作工程の順番を変えた。登場人物の声を演じてくれた俳優たちは絵の制約がないので、自由に演技ができ、本当にキャラクターに命を宿すことができた」

第一・二の俳優

さらに、ローデンバックが「本作には、2段階で〝俳優たち〟がいる。まず録音したときに実際に声で演じてくれた第一の俳優たち。そして、その音に動きを付けていったアニメーターは第二の俳優たちともいえる」と付け加えた。

「リンダ-」は一般的なアニメと違い、筆でさっと描いたデッサン画のような絵柄に色付けされただけで、動画もどこかぎこちない。内容もファンタジーやSFといった非現実的なものではなく、非人間のキャラクターも登場しない。普通の親子、子供たちの日常の出来事を描いた内容だ。しかし、確かに名作に触れたという余韻が残る。

「この作品を見ながら涙して笑って、見終わった後も時々、思い出してもらえるような映画であってほしい」(マルタ)

日本語吹き替え版には安藤サクラ、リリー・フランキーらが声で出演。12日から全国順次公開。1時間16分。

キアラ・マルタ 1977年、ローマ出身。映画監督、脚本家。

セバスチャン・ローデンバック 1973年、仏アラス出身。映画監督、イラストレーター。

(水沼啓子)

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