OLEKSANDRA ZHURAVLOVA/ISTOCK
<コロナ禍を経て、ハイヒールの需要は激減...。値段は高いし足も痛くなるけれど、ハイヒールが最高にかっこいい理由について>
ネットフリックスでついに映画版『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』が見られるようになり、伝説の4人組を初めて拝んだZ世代は少なくない。筆者もその1人だが、一番夢中になったのは、個性豊かな4人の女性主人公ではなく、いわば5人目の主人公、ハイヒールだ。
きらきらとビジューがちりばめられたコバルトブルーのマノロブラニク、芸術的なストラップのジミーチュウ、かかとにラッフルが入ったクリスチャンルブタン。コラムニストの給料で、あんなに高い靴を買えるのかという疑問はさておき、何度見ても、うっとりしてしまう。
映画(とドラマと原作小説)はフィクションかもしれないが、現実にハイヒールが女性の装いを支配していた時代のことは、多くの人から聞いたことがある。それは主人公キャリーのように、服とおそろいの色のハイヒールを大量に持っている女性が大勢いた時代だ。
ミレニアル世代やX世代の同僚は、大学のバーにハイヒールを履いていった話や、都会の企業でインターンをするためにベージュのパンプスを買った話をしてくれた。雑誌の編集部でさえも、女性の靴はハイヒールしかあり得ない時代があったという。
確かに筆者も10代の頃は、背伸びをしてピンヒールを履いて友達の家のパーティーに行ったことがある。でも、ニューヨークのファッション誌でアシスタント職にありつく頃には、みな白いスニーカーで出勤するようになっていた。
実際、ハイヒールの売り上げは激減しているらしい。その決定打となったのは、コロナ禍だ。ビルケンシュトックのサンダルを履いて在宅勤務ができる心地よさを知ってしまったら、出社再開はもとより、堅苦しい格好で仕事をするのは難しい。ハイヒールなんてもってのほかだ。
『セックス・アンド・ザ・シティ』の主人公のようにいつも高級ハイヒールを履いている人は今やほとんどいない ALBUM/AFLOメーカーもハイヒールよりフラット靴の品ぞろえを増やしているという。
SATCのキャリーを演じたサラ・ジェシカ・パーカーが、マノロブラニクの協力を得て立ち上げたブランドを終了したニュースは、それを象徴する出来事だろう。なにしろ最近はセールも終盤となると、SATCに出てきそうなピンヒールが100ドル程度で売られている。
若者はスニーカー一択
いやいや、まだ若い世代には需要があるのではと思うかもしれない。
Z世代のポップスターのサブリナ・カーペンターは、厚底のソックスブーツがトレードマークだし、大人気ポッドキャスターのアレックス・クーパーは、使い方によっては凶器にもなりそうなピンヒールを履いて、カマラ・ハリス米副大統領にインタビューをした。
だが、彼女たちは例外だ。近頃のクラブをのぞいてみれば分かる。
女性の定番ファッションは、ジーンズにしゃれたトップス(黒のボディースーツやバラの装飾を凝らしたタンクトップなど)を合わせたスタイル。メークは太いアイラインが主流で、髪はきっちり後ろにまとめ、上着はバイクジャケットが多い。
それぞれ工夫を凝らしているが、足元に視線を落とすと、そこにあるのはスニーカーと決まっている。クラシックなナイキの「エアフォース1」もあれば、コンバースの「チャックテイラー」もある。ソールが柔らかいドクターマーチンのブーツやカウボーイブーツさえ見られる。
夢を見させてくれる靴
一方、全く見当たらないのはハイヒールだ。最近ネット上で、クラブにスニーカーを履いていくことをめぐり、ちょっとした世代間論争が起きたが、そこから言える悲しい事実は、「ハイヒールを擁護する人はオバサン」だった。
だが、Z世代の1人として、筆者はハイヒールの復活を訴えたい。確かに自分を傷つける拷問装置だという批判もあるが、少なくとも履いている間は楽しい気持ちにさせてくれるからだ。
ストラップに花の装飾を凝らすといった上品な遊び心は、スニーカーにはまねできない。ヒール部分が奇抜なデザインのものもある。ギラギラのハイヒールもあれば、控えめなデザインもある。独創性という点では、ハイヒールは靴の世界のチャンピオンだろう。
それに実用性は乏しいけれど、ハイヒールは履く者に夢を見させてくれる。自信がないけれど、自信があるフリをするのを助けてくれる。足を長く見せたり、履くだけでセクシーな気分にさせてくれることもある。筆者はこうしたつかの間の喜びが大好きだ。
ハイヒールが働く女性の義務に近かった時代に戻ることは、誰も望んでいないだろう。毎日履けば、足はもちろん背中まで痛くなることがある。サイズが合っていなければ、爪が剝がれることだってある。
でも、社会的な圧力がほぼなくなった今、時々自分の意思でハイヒールを履いてみるのは悪くないはずだ。
筆者はこの夏、初めてキトゥンヒール(高さ3〜5センチの低めのヒール)でストラップ付きの靴を履いて、マイアミのクラブに行ってみた。ストラップがすれる部分には、あらかじめ大量のバンドエイドを貼って。
ビルの前で車を降り、カツカツと歩道を闊歩して、地下につながる階段を降りていくときの爽快感といったら! 自分らしさを取り戻した気がした。と同時に、なにか物足りない気もした。
やはり文句なしに最高の気分になるためには、とんがったピンヒールを履く必要があるのかもしれない。
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