「鉄腕アトム」や「ブラック・ジャック」などで知られる漫画家、手塚治虫(1928~89年)の足跡をたどる「手塚治虫展」が愛媛県新居浜市美術館で開催されている。手塚プロダクションが企画した全国21カ所目の巡回展だが、手塚の「盟友」で新居浜市出身のイラストレーター、真鍋博(1932~2000年)との関わりを紹介するコーナーが特別に設けられている。
手塚と同時代を生きた真鍋は、日本のイラストレーターの草分けとして知られ、高校卒業までを新居浜市で過ごした。手塚と真鍋について、同美術館広報担当の堀孝さんは「いずれも実験的アニメーション表現に挑戦し、21世紀を描いたSF作家。同じ時間を過ごし、論じ合う場面があった可能性は否定できない」と話す。新居浜展開催に当たり、2人の接点や関係性を示す記録を広く刊行物から掘り起こし、パネルなど10点による企画展示コーナー「手塚治虫と真鍋博」を設けることにした。
多摩美術大で油絵を専攻した真鍋は、舞台美術やアニメーション作品など、さまざまなアーティストとの活動を繰り広げた。1960年には久里洋二、柳原良平と「アニメーション3人の会」を結成。活動の一環となった「アニメーション・フェスティバル」には64、65年と手塚もアニメ作品を寄せた。一方で、真鍋は60年ごろからSF雑誌などに精力的にイラストを寄せ、星新一、筒井康隆、小松左京らの作品の挿絵や装丁でも活躍。21世紀の未来図でも一世を風靡(ふうび)した。
会場では小松、手塚、真鍋が一緒にテレビ出演した際の写真(小松左京ライブラリ提供)を展示。また、手塚が71年に「S―Fマガジン」(早川書房)に連載した漫画「鳥人大系」で、真鍋のイラスト画風に似せたキャラクター「コメンテーター真鍋さん」を登場させた場面などを見ることができる。
真鍋の長男で国立科学博物館副館長の真鍋真さん(65)は、幼少期に父と一緒に行った映画の試写会で手塚に偶然会った時のことを鮮明に覚えているという。「私が『もっとアトムを強くしてあげてください』と直訴し、手塚さんも父も苦笑いしながら聞いていたことが思い出されます」と振り返る。今回の展示について「真鍋とのつながりもご紹介いただき手塚ファンの一人としてうれしく思います。手塚さんや真鍋が描いた未来の中で、何がまだ実現していないのかを探し、何が実現できそうかを想像してみたい」と心を遊ばせている。
手塚治虫展は2025年1月19日まで。生涯に手がけた約15万枚から厳選した直筆原稿など約300枚と、映像、資料、愛用の机などを紹介している。一般1200円(前売り1000円)▽高校・大学生1000円(同800円)▽小中学生800円(同600円)。問い合わせは同美術館(0897・31・0305)。【松倉展人】
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