いよいよ大詰めを迎えたNHK大河ドラマ「光る君へ」。直木賞作家の澤田瞳子さんは、ドラマに「平安時代の既存イメージを壊そうとするチャレンジ精神を感じた」と語る。
小説「満つる月の如し 仏師・定朝」「のち更に咲く」などで同じ時代を多く描いてきた澤田さんの目に、今回の大河はどう映ったのか。
長く語り継がれるイメージに
放送前から「期待と不安があった」という澤田さん。「大河ドラマで平安時代が舞台になることはなかなかありません。今後もこの時代のイメージとして語り継がれる作品になると予想していました」。それだけに欠かさずに見てきたという。
みやびできらびやかな王朝絵巻――。世間一般にはそんな印象がもたれがちだが、第1回からそのイメージが揺らぐシーンが登場した。「道長の兄である道兼(玉置玲央さん)が、まひろの母ちやは(国仲涼子さん)を殺害する場面です」
実は澤田さん、放送日に京都市内で開催されたパブリックビューイングに一般客として参加して、このシーンを見た。「あちこちで悲鳴が上がっていましたよ」
12月1日に放送された第46回では、外国の海賊が壱岐・対馬や九州北部を襲撃した「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」にまひろが巻き込まれた。「小説の題材になることはありましたが、九州で完結する事件のため、都を舞台にすると作品では取り上げづらい。それを取り込んだのも、平安のイメージを変える試みだと感じます」
新鮮だったユースケさんの安倍晴明
個性豊かなキャストも話題に。「放送前から期待していたのは安倍晴明役のユースケ・サンタマリアさん」。映画や漫画では美青年として登場することが多い晴明だが「道長の時代は中年になっていたはずでぴったり。明るさも暗さも演じられるユースケさんの魅力が出ていました」。秋山竜次さん演じる藤原実資(さねすけ)も「実直な人物像がよく似合っていた」と振り返る。
平安貴族を描くことには難しさがある。「なよなよしていてろくに働かず、質実剛健な武士たちに取って代わられた、という歴史観が一般に固まってしまっている」からだ。ドラマが複雑な「人間らしさ」をよく描き出したと感じたのは、清少納言(ファーストサマーウイカさん)が「枕草子」を書く場面だったという。
清少納言は中宮・定子(高畑充希さん)を現代の「推し」のように情熱的に支えるキャラクター。定子の実家である中関白家が没落し、失意に沈む中で枕草子を著す。「つらいからこそ輝かしい日々を書き残そうという思いにひかれた。ドラマでは当事者たちの苦しみや悲しみも描かれ、印象深かった」と振り返る。
澤田さんも、毎日新聞の連載コラム「日本史寄り道隠れ道」で、そんな平安時代の人々の「人間らしさ」を紹介している。「私たちは平安貴族たちのことを同じ生身の人間と感じづらい。でも本当は現代と地続きなのだと知ってほしい」と期待した。【花澤茂人】
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