「キノ・ライカ」の外観。古い工場の建物を利用している=フィンランド・カルッキラで2024年9月29日午後0時8分、岡橋賞子撮影

 世界中にファンを持つフィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキさん(67)が、2021年10月、故郷のカルッキラという町に映画館「キノ・ライカ」をつくった。それ以来、地元の人々だけでなく、日本からもファンが訪れる人気の場所となっている。

 カルッキラは首都ヘルシンキから北西にバスで約1時間の場所に位置し、深い森に囲まれた人口約8400人の小さな町だ。

「文化で恩返しを」

「キノ・ライカ」共同経営者のミカ・ラッティさん=フィンランド・カルッキラのキノ・ライカで2024年9月28日午後6時18分、岡橋賞子撮影

 この地で約20年暮らす、共同経営者のミカ・ラッティさん(55)に映画館の成り立ちを聞いた。監督と家族ぐるみの付き合いをしているラッティさんの元に、21年4月、ポルトガル滞在中の監督から「カルッキラに映画館を開こう」と電話が入った。監督はカルッキラに「文化で恩返しをしたい」との思いを語ったという。監督がまもなくフィンランドに戻ると、プロジェクトが動き出した。カルッキラは長く鉄鋼業が盛んで、候補地はラッティさんの自宅近くの元ほうろう工場。朽ちた部分も多かったが、監督自らがスクリーンを張り、客席を設置するなど、急ピッチで手作業を続け、同年10月8日、オープンに至った。

 ラッティさんは「カルッキラには工業の基盤はあったが、文化的な施設がなかった。映画館だけでなく、バー、レストラン、サウナも備えて、コンサートやイベントを定期的に開き、多くの人に来てもらえる施設にしたかった」と話す。

 レンガ造りの大きな建物1階には、チケット販売所も兼ねる小さなバーカウンターがある。これは監督の映画のセットを移設したものだ。奥のレストランからは良い香りが漂ってくる。

町のカルチャースポット

愛犬と一緒に「キノ・ライカ」に映画を見に来ていたテーム・マティンプロさん。「もう20回ほど来ているよ」=フィンランド・カルッキラで2024年9月28日午後3時56分、岡橋賞子撮影

 シアターは106席を備え、幕と座席は深紅で統一されている。世界で公開中のアメリカ映画や、フィンランド国内の新作、子ども向けの作品、またカウリスマキ監督の自作など、週に25~40本ほどが上映される。

 ミーティングなど多目的で市民が利用可能な部屋もあり、2階には写真や絵などの展覧会の会場にできる場所もある。そして、愛犬家の監督らしく、犬を連れて映画鑑賞できるのがユニークだ。

 白い大型の愛犬、ライニスと共に来ていたテーム・マティンプロさん(63)は「これまでライニスを連れて20回ぐらい映画を見たけれど、問題なく楽しめているよ」と、すっかり常連だ。

 キノ・ライカでは、23年の1年間で2万1358人が映画を見た。ラッティさんは「町の人口を考えれば、当初から成功だった」と手応えを語る。24年6月には、はるばる日本から、バス1台分、25人のツアー客を迎えた。カルッキラのロケ地巡りや、監督や主演俳優と触れ合える機会を設けたほか、周囲の森でのベリー摘みなど、カルッキラでの時間を楽しんでもらったという。

 ラッティさんは「喜んでもらえるアイデアを常に考えている。ヘルシンキから日帰りでも来られる距離のため、より多くの人を迎えていきたい」と話す。

ドキュメンタリー映画も公開

 キノ・ライカとカルッキラの人々との関係に焦点を当てたドキュメンタリー映画「キノ・ライカ 小さな町の映画館」がつくられ、12月14日からユーロスペース(東京都)をはじめ、京都シネマ(京都市)やKBCシネマ1・2(福岡市)など全国の劇場で順次公開される。監督を務めたクロアチア出身のベリコ・ビダクさんが約1年間、家族と共にカルッキラに住み込み撮影を続けた意欲作。キノ・ライカが新たに地元に果たすようになった役割を、注意深く観察している。【岡橋賞子】

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