MBSテレビ「住人十色」で新MCとなった駿河太郎さん=大阪市北区で2024年4月10日、大西岳彦撮影
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 「『MCはこうあるべし』というのがなくて、常に素の自分で楽しんでいます。司会者として、正解かどうかは分かりませんけどね」。そう笑うのは、俳優の駿河太郎。MBSテレビで2008年から放送している「住人十色~家の数だけある 家族のカタチ~」の新MCを務めている。テレビ番組の司会は初挑戦。のびのびと収録に臨んでいるように見えるが、「オファーを受けるべきか迷いもあった」。俳優としての誇りや責任感の強さがにじむ。

 「住人十色」は全国各地の個性的な家を紹介し、そこで暮らす住人の姿から家族のあり方を見つめる番組だ。3月中旬、初めての収録では、終始リラックスした表情を見せていた。和モダンな住居を建てた住人のアイデアに声を上げる。「このバスケット、家にもありますよ!」「お金の使い方がうまい。教えてくれへんかな」。まるで自宅で一緒にテレビを見ているような感覚だ。

 「同じ目線でいることが視聴者にとって一番心地いいと思う」。「気さくな兄ちゃん」の雰囲気を醸し出しているが、「自分を大きく見せようと、とがっていた」時期もあったという。だが「このままじゃあかん」とふとした瞬間に気づいた。「強がっていても、いずれ化けの皮がはがれる。『自然体』でいる方が魅力的だと思うんです。そこから無理するのはやめました」

 だが俳優の仕事は「自然体」とは正反対といえる。今回、MCを打診された当初は「普段の駿河太郎を見せていいのか。役者としてはマイナスではないか」と迷ったという。それでも最終的には俳優としての覚悟から受けることを決めた。「見ている人に雑念を与えるような芝居しかできないなら、生き残れない。自分をいかに消せるか。逆にモチベーションは上がりましたね」

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 1978年、兵庫県出身。20代でミュージシャンとしてデビューしたが「全く売れへんかった」。東京・下北沢の古びたアパートを転々としながら週6日、自転車やバイクで配達するメッセンジャーなどのアルバイトで生計を立てた。30歳で音楽と並行して俳優活動も始めるも、オーディションには落ちてばかり。「退路を断つ」と俳優一本に絞り、11年のNHKの連続テレビ小説「カーネーション」で主人公の夫役を射止めて注目を浴びた。「ここで勝負する」とアルバイトを辞め、俳優業に心血を注いだ。努力が実を結び、今や名バイプレーヤーとなった。

 父は笑福亭鶴瓶。売れない時代、「鶴瓶さんの力を借りればいい」という周囲の声には耳を貸さなかった。「僕は地に足を着けて歩きたいんです。地道にやって評価されていくしかない世界だから」。自ら道を切り開いてきたという自負がある。

 家庭に帰れば高校1年の長男と、小学5年の長女の父親だ。家事は妻と分担し、週3日ほどは長男の弁当作りで一日が始まる。「おかずが『茶色』になりがちだけど、バランスを考えて。ブロッコリーとかスナップエンドウは常備して、必ず緑が入るようにしているよ」とうれしそうな表情を見せる。

 「もし理想の家を建てるとすれば?」との問いには「家を建てるのは難しいですよ。『隙間(すきま)産業俳優』ですから」と切り返した。「真ん中で主演するというよりは、話をかき回す役が多い。劇中でも僕、大体死ぬでしょ」と笑う。おごらず謙虚に、まっすぐが信条。「『こんな役をやりたい』と望むのではなく、与えられた仕事を一生懸命やるのが大事だと思う。だから僕は隙間産業でいいんです」

 「住人十色」は土曜午後5時。TVer(ティーバー)などで見逃し配信もある。【谷口豪】

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