沖縄県北谷町出身のアーティスト、HAYATO MACHIDAさん(29)の個展「Into the closet(クローゼットの中へ)」が6日、那覇市前島のホテルアンテルーム那覇で始まった。入場無料。18日まで。人の顔をした花などポップなモチーフで、社会の状況や規範意識を問い直す絵画27点が展示されている。 MACHIDAさんは、沖縄出身のバンドHYのツアーグッズや、ユニクロとのコラボTシャツ、ブルーシールアイスクリームの名護店をはじめとする壁画を手がけるなど露出も多い。今年は台湾や韓国を含む国内外で個展やグループ展を開催するなど注目が高まりつつある。「絵を描くことは生きるために必要なこと」だというMACHIDAさんに話を聞いた。(社会部・真栄里泰球)
個展「Into the closet」を開催中のHAYATO MACHIDAさん=11月6日、那覇市前島・ホテルアンテルーム那覇(竹尾智勇撮影)ー台湾と福岡に続く、今年3回目の個展です。
台湾の個展は「Unheard Melodies」というタイトルでした。聞こえないメロディーという意味で、聞こうとしなければ受け取れないこと、意識しないと見えないけれど存在していることなどを、表現できないかと考えました。福岡での「Bounce back」は英語のスラングで、一番のどん底から跳ね上がる力といった意味なんですけど、それが自分にとっては美術です。
今回の「Into the Closet」はクローゼットの中へという意味です。クローゼットは何かを隠している状態を表す隠語です。オープンにできないのは、社会の規範に対して普通ではないって感じるからだったりすると思いました。近年、マイノリティーであることが少しずつオープンにできる社会になってきましたが、それと同時に対立を生んでいる現状があります。自分にとって過ごしやすい社会とは何かを考えるためには、自分と同じように他者について知ることが必要なのかなと思っています。今回の個展はパーソナルなことを中心とした作品をメインに、個展をクローゼットと見立て、その中に他者が入ることでどのようなことが起きるのかを考えたいと思いました。
生きていく上で、自分は正しいのかと自問する場面がありますが、「正しさ」には社会が決めているものもあって、それは時代によってどんどん変化しています。社会規範で縛ることのできないものを考える必要があると思っています。それを話すきっかけを音楽や美術などの芸術表現が作ってくれていると感じます。
HAYATO MACHIDA《Partner》 2024 、F60、acrylic on canvasー自身のパーソナルなこととは。
子どもや孫を持って家族が大きくなっていくことを幸せの形として小さい頃から教えられ、受け入れてきたんです。ただ、自分は結婚や子どもを持つこととは違うんだろうなと考えた時に、幸せの概念を捉え直しました。思春期の時は「家族を壊してしまう」とか不安しかなかったけど、美術を通してそういう話をしてもいいんだとか、マイノリティーなどの権利運動をしている人たちのことを知って、そういう世界だったら生きていけるかもしれないと思い、美術活動をしていくうちに29歳になりました。
HAYATO MACHIDA《Undress》 2024、F10、acrylic on canvasー植物のつるで人の形を描いた「Undress」「Partner」などの作品が展示されています。
植物って自由に伸びていくようでも、人間が関与して「美しさ」を決めている。それと同時にその反対も規定される。多様性が認められる社会では「美しさ」も多様で、基準もどんどん変化していきます。ずっと描いている(人の顔を持つ)「my flower」というモチーフがあります。花は観賞用に品種改良されてきていますが、美しいからこそ切り花にされ、命を縮められる。それをかわいそうと思う半面、より美しい花が欲しいと思う欲望もある。花を見て、いろいろ感じることがあったのでちょっとキャラクターっぽくしたのがきっかけです。植物のつるで文字を書いたシリーズもあって、その延長で人の形をモチーフにしました。人物シリーズと言ってます。
ー今年から、沖縄県立芸術大学の大学院に通っているそうですね。
一般の大学を卒業したので、大学院で美術のことを学び直そうと思いました。美術史とか技術のことも学びますが、考えていることを話して、議論ができる環境はすごく大きいなと思います。美術とジェンダーについて深く掘り下げたいので、博士課程まで進もうかと計画しています。
キース・ヘリングやアンディ・ウォーホルを、Tシャツなどの日用品などから知って好きになったんです。そこから、作家や背景について調べたり、考えたりしました。ウォーホルの描くキャンベルスープは、沖縄で普及したのは米軍統治があったからだとか。でも、作品の意味から入って好きになったわけではないので、自分もコンセプトを表に出して見てもらいたいとはあまり思っていません。質問されたら説明はします。年を重ねて聴き直した時に、同じ言葉だけど捉え方が変わったりする音楽が好きなので、シンガー・ソングライターが気持ちを歌に乗せるように、自分も絵を描き続けたいです。かっこいいとかきれいとかの表象は好きで、大切だけれど、それだけでは流行に流されるっていうか。自分にとって絵を描くことは生きることなので、長く続けていきたいです。例えば「my flower」も最初に見たらかわいい花に見えると思うんですが、自分がキャリアを重ねた後だとイメージが変わってくると思うんですよ。
ー個展会場にホテルを選びました。
自分はギャラリーに行くとなぜだか緊張するんです。でもホテルだと入るハードルが低いと思って企画を持ち込みました。気軽に見てもらえたらうれしいし、自身の不安などに向き合うきっかけになったらいいなと思います。
HAYATO MACHIDA 「Into the Closet」
会期|2024年11月6日(水)~11月18日(月)
時間|9:00~21:00 ※最終日のみ18時閉場
会場|ホテルアンテルーム 那覇 Gallery9.5 NAHA
入場|無料
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