開幕中の東京国際映画祭で5日、俳優で映画監督の斎藤工さんや学生らが審査員を務める「エシカル・フィルム賞」の授賞式があり、西アフリカを舞台に植民地主義を考察したドキュメンタリー「ダホメ」(マティ・ディオップ監督、ワールド・フォーカス部門出品)がグランプリに輝いた。
同賞は映画を通して貧困や差別などの社会課題への意識や、多様性への理解を広げようと昨年新設。「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念に照らし、今年は3作品がノミネートされた。ベナン共和国に存在したダホメ王国からフランスに接収された美術品が返還される過程を追った「ダホメ」のほか、フランスで注目を集める過激な環境保護活動家らを記録したドキュメンタリー「ダイレクト・アクション」(ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル監督、ワールド・フォーカス部門出品)と、洪水に見舞われた世界を猫の視点から描くアニメーション「Flow」(ギンツ・ジルバロディス監督、アニメーション部門出品)。
斎藤さんが審査委員長を務め、映画祭の「学生応援団」のメンバー3人と審査した。授賞式では審査員によるトークセッションが開かれ、斎藤さんは「3作品ともグランプリにふさわしいものだった。自分なりに順位をつけて審査会に臨んだが、話しているうちにどんどん変動していった。(議論の中で)作品が熟成されていき、真意に迫れた。審査会が最も有意義な時間だった」と振り返った。審査会は斎藤さんの提案で録音されており、近く公開する予定という。
「ダホメ」はベナン、セネガル、フランスの合作で、2月のベルリン国際映画祭で長編コンペティション部門最高賞の金熊賞を受賞している。斎藤さんは「ヨーロッパがこの映画の製作に関わり、評価するというのは、ある種、皮肉めいたものがある。映画のジャーナリズムを強く感じる」と評価。国際基督教大学大学院1年の縄井琳さんは「一番衝撃的で、自分はアフリカのことを全く知らないと思った。知らないことで偏見があったことにも気づいた。自分自身を振り返らせてくれる作品だった」と語った。
斎藤さんは当初「Flow」を推していたといい、「人間が描かれていないからこそ、人間とはどういう生き物だったのかを突きつけられる」と絶賛。「美しさや没入感に既視感があり、ジブリ作品の影響を受けているのではないか」と推察した。
「ダイレクト・アクション」は3時間半に及ぶ長編で、慶応義塾大学3年の河野はなさんは「こんなに長い映画は見たことがなかった。だからこそ、この長さに意味があるのだろうと思えた。新しい映画体験だった」と感動を語った。
筑波大学大学院1年の佐々木湧人さんは審査会を通して作品の見方が深まったといい、「議論すること自体がエシカルな行動だと思った。見るだけではなく、議論することを含めて映画というものを考えていきたい」と話した。
「ダホメ」と「ダイレクト・アクション」の日本公開は未定で、「Flow」は2025年3月に劇場公開される予定。【村瀬優子】
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