「地球ゴージャス」結成30周年を迎え、息の合ったポーズを決める岸谷五朗(左)と寺脇康文=大阪市中央区で2024年3月22日、梅田麻衣子撮影

 岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット「地球ゴージャス」が結成30周年を迎え、記念公演「儚(はかな)き光のラプソディ」を東京と大阪で上演する。世界各地で繰り返される戦争や紛争、自然災害などで多くの命が失われる中、「人間の素晴らしさ」を伝えようと紡がれた物語。結成当初から2人が考え続けてきた「今、この時代に必要なこと」が詰まっている。

 「地球ゴージャス」は1994年、「劇団スーパー・エキセントリック・シアター」を独立した2人が結成した。翌95年に阪神大震災が発生し、寺脇は「役者という仕事の必要性を見失いそうになった」という。しかし何度も話し合い、「最後に必要なのは心の栄養ではないか」と思い至る。「日本だけでなく地球の人々の気持ちを豊かに、ゴージャスに」しようとユニット名を付けた。

 出演者は固定せず、毎回多彩なゲストを招いてさまざまな作品を上演してきた。今作も岸谷が作・演出を手がけ、ゲストに中川大志、風間俊介、鈴木福ら豪華な顔ぶれがそろう。

 物語の舞台は謎の白い部屋。時空を超えて集まった7人の男女が繰り広げる会話劇だ。岸谷はウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘に触れ、「人間に絶望しそうになる時代でも、人間って素晴らしいと思いたくて脚本を書いていたら会話劇ができあがった」という。寺脇も「争いはなくならないけれど、人が犯した過ちを修復できるのも人ではないか。そんなことをお客さんと一緒に考えたい」と語る。

   ■   ■

 旗揚げ公演から全ての作品で演出を手がける岸谷はオリジナル作品を大切にしてきた。「演劇はとてもぜいたくな芸術で上演中はある意味、お客さんを劇場に拘束しているようなもの。舞台上と客席で同じ時間を共有しているからこそ、必要なのはその時の社会を反映したオリジナル作品だと思う」と話す。

 そのため、2人はいつも日々の生活で抱えるさまざまな思いを共有してきた。例えば、元日に起きた能登半島地震。寺脇は「テレビでは家に帰れず、ちゃんとした食べ物もない被災地の状況を伝えた後に桜の開花を知らせるニュースが続く。それにモヤモヤしながら、僕たちも普通に飲み食いしている」。そんな矛盾を抱えつつ、自分たちは何をすべきなのか。最終的にはいつも「いい芝居を作ること」にたどり着く。「人それぞれ、生きる上での役割があると思う。僕らは芝居を作ること、心の栄養を作ることが責務なのかな」と語る。岸谷も同じ考えだ。「僕たちが演劇でやれることはとても小さな力だけど、それがお客さんの心に渡った時に大きな力に変わっていく」

 演劇の力を信じて続けた30年。今後の目標を尋ねると、「特にない」と口をそろえた。「目の前の作品のことだけを考えてきたから」と寺脇が言うと、岸谷も「それだけだよね。それが時代とリンクすることにつながっていると思う」と続ける。夢中になっていたらあっという間に30年が過ぎたのだという。

 「『もう飽きた』と言って未練なく終えたいけれど、まだ始めたばかりのような感覚。これで体が衰えて踊れなくなったら嫌だよね」と岸谷。寺脇は「でもきっとできることを見つけて続けていくんだろうね」と笑った。2人は言う。「走っても走ってもゴールは見えないけれど、走り続けたい」

 東京公演は28日~5月26日、明治座。問い合わせはチケットスペース(03・3234・9999)。大阪公演は5月31日~6月9日、SkyシアターMBS。キョードーインフォメーション(0570・200・888)。【松室花実】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。