リディア(写真左)とビートルジュース(同右)の新たな騒動を描く『ビートルジュース ビートルジュース』は、娘(次ページ写真)との関係に悩む中年女性の物語でもある ©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

<良作・傑作群を生み出した後、巨大予算の駄作を量産していた鬼才ティム・バートン監督。1988年の怪作『ビートルジュース』の続編でダークな魅力がようやくよみがえった>

幽霊屋敷の住人が恐る恐る屋根裏部屋のドアを開けるときのひやひや感──。ティム・バートン監督の最新作『ビートルジュース ビートルジュース』に、そんな不安を感じるのはもっともだ。

前作に当たる『ビートルジュース』が誕生したのは1988年。大傑作ではないものの、今も時代を超えて愛される映画の1つだ。ネオゴス風の衣装、ダークなユーモア、ドイツ表現主義的セットデザインなど、バートン流の世界観を初めて最大限に表現した同作は当時、独創的で傍若無人で、新鮮そのものだった。


ホラーとコメディーを混ぜ合わせた『ビートルジュース』では、肥大化した官僚制と、不気味な変人たちが交錯する死後の世界が描かれた。パペットや80年代後半の特殊効果技術を駆使した視覚的・聴覚的快感は、バートンの世界を十分以上に堪能させてくれた。

それから36年後、今や「バートン印」はブランド化し、ディズニーのテーマパークの季節限定アトラクションにもなっている。だが、その体験は常に上質とは限らない。

『バットマン』や『シザーハンズ』といった良作・傑作群を生み出した後、バートンはCGまみれの巨大予算の駄作を量産する監督に変貌した。『PLANET OF THE APES/猿の惑星』や『アリス・イン・ワンダーランド』は、自身の作風を自らパロディーにしたような映画だった。

この約20年間、興行的に最も成功した作品でも、バートン自身が題材に魅力を感じている様子はほとんどなかった。見ていて気がめいることが多かったのは、そのせいだ。

だからこそ、『ビートルジュース ビートルジュース』はうれしい驚きだ。超常世界をめぐる非凡な想像力で観客を楽しませ、心底ぞっとさせてくれる。

アルフレッド・ガフとマイルズ・ミラーが手がけた脚本は、続編製作の話が初めて浮上した30年以上前から、いくつも執筆された草稿の産物であることがうかがえる。少なくとも4つの異なるストーリーが合体され、大筋に無関係の登場人物もいる。いい例が、生前はB級映画スターだった霊界の警察官だ(この役柄が削除されていたら、頭蓋骨が半分ないウィレム・デフォーの怪演を拝めなかった)。

だが詰め込みすぎの物語にもかかわらず、本作はうれしくなるほどシンプルだ。マイケル・キートン扮するビートルジュースが巻き起こす超常的混乱、ウィノナ・ライダー演じる不機嫌なゴス少女リディア、頭から飛び出す目玉──バートンは、シリーズ作品にありがちなうっとうしい説明を抜きにして、『ビートルジュース』ファンが愛する要素を大盤振る舞いしてくれる。

ある日、リディアの愛する娘が死後の世界にさらわれた ©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

前作の登場人物の「その後」を語るフラッシュバック場面があるのは確かだ。リディアの父親、チャールズの悲惨な最期がクレイアニメで描かれるのは気が利いている(本作にはオリジナルキャストの大半が再結集しているが、2003年に性犯罪容疑で起訴されたチャールズ役のジェフリー・ジョーンズは出演していない)。

リディアの継母デリアは、今回もキャサリン・オハラが演じている。かつては継娘とうまくいっていなかったが、リディア自身が10代の娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)の母親になった今では、それなりの関係だ。


超常能力を持つリディアはプロの「霊能仲介者」として、幽霊屋敷もののリアリティー番組の司会をしている。少女時代の事件のトラウマが消えない神経質な女性で、恋人のプロデューサー(ジャスティン・セロー)と迷いながらも婚約し、娘にはインチキ霊能者と非難されている。

新たなキャラも登場する。筆頭格がビートルジュースの元妻で、体を切り刻まれて、各部位を木箱にしまい込まれた状態で死後を過ごしてきたドロレスだ(バートンと交際中の国際的スター、モニカ・ベルッチが演じている)。

母と娘の関係が焦点に

ビートルジュースの名前が繰り返されるタイトルにもかかわらず、本作の中心人物はむしろリディアだ。

冒頭のリディアは、人生がうまくいかない理由がよく分かっていない。この作品の真の顔は、心の傷を受け入れる中年女性の物語だ。母と娘の関係に焦点を当て、感傷に陥らずに、母娘の和解を説得力のある形で描き出す。

近所の少年(アーサー・コンティ)と仲良くなったアストリッドが超常的騒動に巻き込まれ、リディアは娘を救うため、ギリシャ神話のオルフェウスのように冥界に下ることになる。この展開は、重大な意味を持つ追跡劇を生み出すだけでなく、シュールな砂漠やディスコダンサーだらけの「ソウルトレイン」が織り成す死後の世界を描写する口実になっている。

基本的には、ツボを心得た続編作品にすぎない本作を褒めたたえるつもりはない。とはいえ、出来は期待以上だ。成功のカギは、優れた演技にある。キートンは不快なビートルジュースに独特のカリスマを吹き込み、オハラは相変わらず素晴らしい。筆者が足を運んだ試写会では、オハラが口を開けば、ほとんどいつでも笑い声が上がった。

試写会には、リディアやビートルジュース、死体に扮したコスプレ姿の若者が詰めかけていた。36年前には生まれていなかった世代がこれほど熱狂できるなら、映画のシリーズ化も悪いことばかりではないと思えてくる。少なくとも、かつてのバートンが復活したことは歓迎したくなるはず。それも、ハロウィーンに間に合うタイミングで......。

©2024 The Slate Group

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ビートルジュース ビートルジュース
監督/ティム・バートン
主演/マイケル・キートン、ウィノナ・ライダー
日本公開中

今も愛される映画『ビートルジュース』(1988年)

■試写会に詰めかけたコスプレのファンたち

Our 1iota fans had an absolute blast at the 'Beetlejuice Beetlejuice' Advance Screening! From the amazing cosplay to sharing their nostalgic memories of the original 'Beetlejuice,' the excitement for the new film was through the roof! #BeetlejuiceBeetlejuice pic.twitter.com/xyWX5IqLUV

— 1iota (@1iota) September 7, 2024

映画『ビートルジュース ビートルジュース』日本版予告編

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