「テレビドラマ今昔物語」でゲストと対談する石井ふく子(橋田文化財団セミナーより)

世界最高齢の現役テレビプロデューサー、石井ふく子(97)が今年に入り、手掛けたドラマにまつわる対談動画の発信を精力的に続けている。この4月で、人気ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」などで長年組んだ脚本家、橋田壽賀子さん(1925~2021年)が亡くなって丸3年。その節目に、日本のドラマを牽引(けんいん)した橋田作品を後世に伝えるため、出演俳優らと対談している。

ドラマ今昔を動画で語り合う

橋田文化財団のホームページでは今年2月以降、「テレビドラマ今昔物語 うらばなし」と題し、石井がホスト役となってドラマを彩った俳優らとの対談動画を発信。これまでの出演者は、橋田さんの代表作の一つ「女たちの忠臣蔵」(昭和54年)に出演した香川京子や、〝渡鬼〟のえなりかずき、石坂浩二ら。関係する作品映像も挟み込まれ、テレビドラマの草創期から現代に至る貴重なオーラルヒストリーになっている。対談相手の記憶違いを石井が修正する場面もあり、その記憶力には舌を巻く。

財団HPではこれまでも、〝渡鬼〟など作品朗読の音声を配信していたが、石井は「若い人も見やすい動画にすることで、橋田さんの作品を思い出してほしい。そんな気持ちでやっています」として、新たな挑戦にも積極的だ。

橋田さんとは昭和39年、初コンビ作「袋を渡せば」で組んで以来、約60年の付き合いで、家族のような関係だった。橋田さんは脚本を書き上げると石井を静岡・熱海の自宅に呼び出してその場で読ませ、石井の感想や直しをその場で反映させるのが常だった。

「渡る世間は鬼ばかり」の会見に出席した石井ふく子プロデューサー(左)と橋田壽賀子さんの名コンビ=平成30年8月

その橋田さんは亡くなる1カ月前、石井に「財団のことをちゃんとやって!」と訴えた。財団は平成4年設立で、放送文化に貢献した番組や人物を「橋田賞」で顕彰。新人脚本賞を公募するなど、人材発掘・育成に貢献してきた。

石井は「今も橋田さんの死を受け入れられず、電話しそうになる」と話すが、その遺志を引き継ぎ、改めて橋田作品と向き合っている。

新作ドラマ制作、来年は舞台演出も

石井は過去3度、ギネスブックの世界記録(TV番組最多制作、世界最高齢の現役TVプロデューサー、舞台初演作演出本数)に認定された。今も記録更新中で、「年内に新作ドラマにできれば」と、介護士をテーマにした作品の取材を進めている。来年6月には、東京・三越劇場で舞台作品を演出する予定だ。

最高齢のTVプロデューサーとしてギネス記録にも認定された

「私はやはり、家族がテーマのドラマを作りたい。でも今、日本の家族が変わって、家族内で信じられない事件が起こる。自分の両親や子供を大事にするのが家族ではないのか。私は家族がいないからこそ、余計にそう思うんです。家族って面倒くさい、というのは嫌なんです。そして日本のいい所はいっぱいあって、それを大切にしたい」

盟友の橋田さんを失い、さらにコロナ禍が続く昨年4月、石井は相葉雅紀主演のドラマ「ひとりぼっち 人と人をつなぐ愛の物語」(TBS)を制作した。天涯孤独の主人公(相葉)が、おにぎり屋の常連客と心を通わせる物語。「自分も皆さんも独りぼっちだからこそ、人と人との心を結ぶ〝おむすび屋〟のドラマをやろうと思ったんです」。そんなメッセージを込めた3年ぶりの新作は、好評を博した。

日本の家族を描き続ける

昭和から令和まで、テレビドラマ制作の現場で最前線を走り続けてきた。橋田文化財団で新人発掘にも尽力するが、今は脚本家不足を痛感すると話す。

「最近のドラマは短い回想シーンが多い。普通の生活で、時間は逆戻りしないでしょう? 記憶をたどるのもその場で言えば、せりふが長くなっても心が通じる。また横文字のドラマのタイトルが多く、内容と関係がないものが多い。日本語力が落ちています。時代も日本も変わってしまった。寂しいです」

今年9月には98歳を迎える石井は、日本の家族ドラマにこだわり続ける。その思いは、発せられる言葉からも伝わってきた。

「あの人、すてきな仕事をしている、といわれる働き方をしたいですね」

いしい・ふくこ テレビプロデューサー、舞台演出家、大正15年、東京都出身。昭和36年にTBSに入社し、プロデューサーとしてドラマ制作に携わる。「肝っ玉かあさん」「ありがとう」「渡る世間は鬼ばかり」など数々のホームドラマをヒットさせ、TBSの黄金時代を支えた。

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