遮光器土偶の石像の前で、来訪者に発掘の経緯を説明する「つがる縄文遺跡案内人」のメンバー=青森県つがる市の亀ケ岡石器時代遺跡で2024年9月7日、足立旬子撮影

 誰もが一度は教科書で目にしたことがある土偶だろう。それらが発掘された場所など、世界文化遺産に登録された北海道・北東北(青森、岩手、秋田の3県)の縄文遺跡群には、17の遺跡がある。今夏、登録から3年を迎える中、遺跡間で「格差」が生じているという。現場を訪れると、その理由が見えてきた。

遺跡と言っても原っぱ

 目の部分が、スノーボーダーやスキーヤーが着けるゴーグルのような形をしている「遮光器土偶」。国の重要文化財で、発掘された場所は縄文遺跡群の一つ、亀ケ岡石器時代遺跡(青森県つがる市)だ。

 すぐ近くには、縄文遺跡群の田小屋野(たごやの)貝塚もある。

 この二つの遺跡で今月7日、世界文化遺産の登録3周年を祝うイベントが開かれた。主催したのは、地元のNPO法人「つがる縄文の会」。勾玉(まがたま)づくりやバンド演奏などがあり、多くの親子連れでにぎわった。

 ただ、市内に展示されている遮光器土偶はレプリカだ。発掘されたそのものは東京国立博物館に所蔵されている。市内には、重要文化財を保管するのに耐震や耐火などの基準を満たす施設がないためだ。

勾玉を作る子供たち=青森県つがる市の亀ケ岡石器時代遺跡で2024年9月7日、足立旬子撮影

 また、遺跡は土をかぶせて保存されているため、見ることはできない。

 それでも、2023年度には7257人が亀ケ岡遺跡を訪れた。前年の倍近いという。

 その理由をつがる市教育委員会に尋ねると、地元の団体が中心となり、登録前からイベントを毎年重ねてきたことや、4~11月には「縄文遺跡案内人」と呼ばれるボランティアガイドがいて、無料で遺跡を案内している点を挙げた。

 記者が訪れた日も案内人が、観光客らに発掘の経緯などを丁寧に説明していた。青森県五所川原市から初めて訪れたという女性(64)は満足げにこう話す。

 「看板だけの案内なら、遺跡と言っても原っぱにしか見えなかった。ガイドさんが教えてくれて、とても分かりやすかった」

 今回のイベントに協賛した地元の民間団体「じょうもんズ」の徳田幸江さん(51)は「縄文時代は1万年もの間争いがなかったとされている。平和に暮らしていたという縄文の魅力を広く伝えたい」と語る。

「縄文ファッション」好評

「縄文服」を身に着ける若者たち=青森市の三内丸山遺跡で2024年9月6日、足立旬子撮影

 三内(さんない)丸山遺跡(青森市)の23年度の来訪者も24万4579人となり、前年度より約2割増えた。

 特別展や企画展に加え、ワークショップやフォーラムなど多彩なイベントを開催し、新たな情報の発信を続けている。遺跡内では現在も発掘調査を続けていて、連日現場で担当者の解説が聞けるのも魅力だ。「縄文ファッション」の衣装を貸し出し、縄文人になった気分で遺跡を回ることもできる。

 縄文遺跡群世界遺産協議会の会長で、三内丸山遺跡センター所長を務める岡田康博さんは「訪れる人はシニア世代だけでなく、若い世代まで年齢層が広がった」と話す。

復元した大型掘立柱建物の前に立つ岡田康博・三内丸山遺跡センター所長=青森市で2024年9月6日、足立旬子撮影

 23年度に縄文遺跡群(整備工事中の青森県八戸市の是川(これかわ)石器時代遺跡を除く)を訪れたのは計43万1305人に上る。統計を始めた17年度以降最多となった。ただし、前年度を上回っていたのは、4遺跡にとどまった。

 来訪者数の格差が生じていることについて、岡田さんは「公共交通機関の便数が少ないなどアクセスの悪さがある。また、新たな情報発信が少ないと興味が続かない」とみている。【足立旬子】

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