映画「潮待ち模様」のロケ風景=香川県さぬき市の津田漁港で、2024年6月1日午前9時58分、佐々木雅彦撮影

 昭和30~40年代を中心にサケ・マス遠洋漁業の基地として栄えた津田漁港(香川県さぬき市津田町)の「今」を舞台にした自主制作映画「潮待ち模様」の撮影が進んでいる。地元出身で元俳優の三好冬馬(とうま)さん(58)=高松市在住=が脚本・監督を務める。津田の漁師や水産会社社長らに取材し、自身の半生も投影させたストーリーで、かなえられなかった思い、諦めなかった思いが織りなす人間模様だ。

 映画には、70代のベテラン漁師・輝彦、その幼なじみで水産会社会長・勢津、津田に流れ着いた漁師見習い・信一、インドネシア人技能実習生の女性・シリらが登場する。漁業の後継者不足、父と息子の確執などを通して、「自分のことを親身に考えてくれる人たちの方が、血のつながりよりも本当の家族になれる」というメッセージを込めた。

 三好さんは小学1年生の時、英国の青春映画「小さな恋のメロディ」を見て「映画をつくりたい」と思った。高校時代に米国の青春映画「アメリカン・グラフィティ」を見て渡米を決意した。高校卒業後間もなく津田を離れ、東京や米国で映像制作を学び、26歳の時に家庭の事情で津田に戻った。39歳で再び上京して俳優として活動し、49歳で香川に帰ってきた。

 「潮待ち模様」は初めて本格的につくる映画で、脚本は「さぬき映画祭2023」(香川県など主催)のシナリオコンクールで大賞を受賞した。演じるのは地元の人らだ。三好さんは2023年に「映画制作ワークショップ」を約10回開いて参加者を募り、出演者やスタッフを決めた。撮影を始めたのは24年4月。ロケは、白砂と松林が続く景勝地「津田の松原」や津田漁港などで行われた。

津田漁港で1972年、大漁旗を揚げ、大勢の人たちに見送られて出港する遠洋漁業船団=香川県さぬき市で、野崎義之さん撮影

 勢津役を演じる建築会社会長の安冨美智代さん(78)=さぬき市=は「20歳の頃までは、津田港は船団が出港する時はいつも大勢の人たちでにぎわっていた」と振り返る。何十隻もの船が大漁旗をはためかせ、小学生の鼓笛隊の軍艦マーチに見送られた。船団が帰港すると、サケが詰まった木箱が家々に無料で配られ、「冷凍技術がなかったから塩ザケだった。辛かったけど、おいしかった」と懐かしむ。脚本を読んで「昔の記憶がよみがえってきた。津田は今は寂れたけど、美しい海がある。波の音も心地いい。映画を通して津田の良さをたくさんの人に知ってもらいたい」と期待している。

 映画はクライマックスで、潮の満ち引きと人間模様が重なり合ってくる。「潮の流れは止まることはない。人生の浮き沈みも同じ。慌てずに待てば必ず潮目は変わる」と三好さん。自身が子どもの頃に映画に影響を受けたように「この映画が誰かの心に少しでも響いてくれれば」と願う。

 「潮待ち模様」は2025年2月8~9日に開かれる「さぬき映画祭2025」で上映予定。【佐々木雅彦】

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