「尼崎の街が主役のような映画」と語る江口のりこ(酒巻俊介撮影)

「尼ロック」と呼ばれる巨大なロックゲートで水害から守られている街、兵庫県尼崎市を舞台に、家族のつながりをコメディータッチで描いた映画「あまろっく」。監督は尼崎市出身の中村和宏。人生に挫折し、実家でニートのような暮らしをしていたが、周囲との関わりを通して再生していく主人公、優子を演じた江口のりこ(43)に作品について聞いた。

優子は東京の大手企業でエリート街道を歩むも理不尽なリストラに遭い、尼崎の実家に戻ってきた39歳にして独身。母親とは死別し、町工場を営む65歳の父親(笑福亭鶴瓶)と2人家族という設定だ。

「人生に起こることはなんでも楽しまな」が口癖で、遊んでばかりいる父親が、ある日突然、20歳の再婚相手(中条あゆみ)を連れてくる。年下の継母との3人暮らしが始まるが、衝突が絶えない。

映画「あまろっく」©2024 映画「あまろっく」製作委員会

台本を読んだ第一印象について、江口は「尼崎に生きる人たちを描いた話で、ロケも実際に尼崎の街でするということだった。でもファンタジー的な要素が多くて、どうリアルに見せるかで苦労するのではないかと思った」と振り返る。

優子は、愛想が良く気の置けない性格で周囲からは愛されている父親に、なぜか反発する。そんな複雑な心情を理解するのにも、時間がかかったという。

「映画の中でボートをこぐシーンがあるので、ボートの練習を1カ月以上やった。最初の頃は転覆して大変だった。汚い川で水は冷たいし…。ただ無心になってボートをこいでいるうちに、主人公の人物像が見えてきた気がした」

優子は京都大在学中、ボート部の選手として活躍するなど文武に優れた人間だが、無愛想で忖度ができず、社会の中では孤立してしまう。ややこしい性格だが、どこか優しさを秘めている人物。中村監督は「江口さんの優子への理解度はさすが」と絶賛する。

「脚本から離れたところで主人公のキャラクターを作っていったところがある。本当に鶴瓶さんと中条さんには助けられた。2人とも人柄が良くて、芝居をしていくうちに自然と湧いてきた2人に対する愛情とか、そんな気持ちをそのまま芝居の中で出した」

タイトルについて、「この作品の『あまろっく』とは家族を守る父親のことを指しているのでは。いざというときに役に立つ、隠れた大きな存在。まさしく私にとっては笑福亭鶴瓶さん」と即答した。

全編が関西弁のせりふで、軽妙な会話が魅力の一つになっている。「尼崎の街が主役のような映画で、そこに生きる人たちの話。登場人物がすごくチャーミングですてき。難しい話ではないので、気軽に楽しんでもらえるのでは」(水沼啓子)

19日から全国公開。1時間59分。

えぐち・のりこ 昭和55年、兵庫県出身。中学卒業後、アルバイト生活を経て、平成12年に「劇団東京乾電池」入団。14年、映画デビュー。ドラマでは「SUPER RICH」(フジテレビ系)などに主演、8月に主演映画「愛に乱暴」が公開予定。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。