ジャックス(グラッドストーン)は先住民女性としての現実に直面する APPLE TV+

<監督が高らかに宣言しなくても、登場人物の選択に社会システムが影響しているのを感じ取ることができる

これはロードムービーか、それとも青春物語か、はたまたノワールの香り漂う警察小説なのか──

そんな新作映画『ファンシー・ダンス』は、テレビドラマシリーズ『レザベーション・ドッグス』の脚本・監督も務めたドキュメンタリー作家エリカ・トレンブレイの長編デビュー作だ。

トレンブレイとミシアナ・アリスによる脚本は、高い評価を得た『レザベーション・ドッグス』に似たところがある。どちらの作品も、米オクラホマ州の居留地で暮らす先住民の若者の生活と憧れを描いている。

『レザベーション・ドッグス』はマスコギー族を扱っていたが、『ファンシー・ダンス』はセネカ・カユーガ族の土地とその周辺が主な舞台で、カユーガ語のせりふもある。


伯母と姪の奇妙な旅路

しかし『ファンシー・ダンス』では、先住民の女性が殺されたり行方不明になったりする事件が全米に広がっているという不吉な背景の下、居留地の子供たちの法に反する悪ふざけが悲劇につながっていく。

ジャックス(リリー・グラッドストーン)は妹のタウイ(ハウリ・スー・グレイ)が突然姿を消したため、タウイの13歳の娘ロキ(イザベル・ディロン・オルセン)の面倒を見ることになる。

ジャックスは忠実な姉であり、ロキにとっては愛情深い伯母だが、独立心が旺盛で、時に周りに不快感を与える一匹狼だ。彼女はちっぽけな悪さを続けて食いつなぎ、経済的に苦しくなると犯罪組織のために麻薬を売っている。

ジャックスは些細な犯罪で服役したこともあった。それは、ロキの生活状況を調べに来た児童保護局の調査官にとって、彼女を居留地の家から連れ出し、白人の祖父(シェー・ウィガム)と、善意の持ち主だが不器用で無神経なその妻(オードリー・バシレフスキ)に預けるための、薄っぺらだが法的には正当な口実になった。

ジャックスは、ロキが先住民の大規模な祭り「パウワウ」に参加したいと心から望んでいることを知っていた。そこで夜中に祖父の家からこっそり彼女を連れ出し、ドライブ旅行に出かける。

居留地外の白人警官にしてみれば、この旅行はロキが同意したものだとしても未成年者の誘拐事件と見なすことができ、タウイの不可解な失踪より捜査に値する。

ジャックスの異母弟JJ(ライアン・ビゲイ)は居留地の警官で、家出人たちの窮状に理解を示すが、彼もジャックスが保護者として頼れるかどうかは疑っている。警察が家出した伯母と姪のペアに迫ろうとするなかで、JJはタウイの居場所を調べ始める。

姪のロキ(右)とジャックス(左)は部族の祭り「パウワウ」を目指す APPLE TV+

『ファンシー・ダンス』は、個々の人生というミクロのレンズを通じて社会問題を考察するインディーズ映画の秀作だ。監督が高らかに宣言しなくても、観客は登場人物の選択に社会のシステムが影響しているのを感じ取ることができる。

このような静かな社会的リアリズムの作風は、『ウィンターズ・ボーン』(2010年)や『足跡はかき消して』(18年)の監督で知られるデブラ・グラニックが得意とする。


ラストダンスは希望へ

トレンブレイとアリスの簡潔な脚本は、経済的不平等、貧困と依存症の関連、里親制度に組み込まれた人種差別に触れているが、問題を具体的に名指しすることはない。

グラッドストーンは自らが主役級を演じた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が賞レースのシーズンを迎えていたときに、このやや地味な映画のために走り回っていた。

理由は簡単。『ファンシー・ダンス』はサンダンス映画祭で上映されて話題になったが、その後1年半ほど配給会社が決まらなかったのだ(ようやくアップルに拾われ、6月28日からアップルTVプラスで配信中)。

その非凡さに磨きをかけたグラッドストーンが、見事にゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得した『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の寡黙なヒロイン役よりもダークなモードでジャックスを演じている。親しみやすいが、完璧という言葉とは程遠い主人公だ。無愛想で秘密主義で、衝動的に自虐的になる。

彼女は法を犯すことで自分たちが置かれた危険について、ロキに嘘をつくこともためらわない。これらの嘘はロキを守ることが狙いの場合もある。

『ファンシー・ダンス』の登場人物に非の打ちどころのない振る舞いをする人は一人もいないが、トレンブレイは疑わしい選択をするキャラクターを決して悪く描かない。

ロキの白人の祖父母でさえ、自分たちの特権が先住民の親族のライフスタイルを危険にさらしている勢力と一体化していることに気付かず、悪役ではなく、経済的・人種的搾取の制度に巻き込まれた被害者として登場する。

映画のラスト15分ほどは、サスペンスにあふれている。だが展開があまりに慌ただしく、全ての筋書きが思うように解決しない。特にタウイの失踪に関わる部分は厳しい。


それでも伯母と姪がパウワウに到着し、年に1度の「母と娘のファンシー・ダンス」が始まるラストシーンは違う。

ロキが切望してきたユートピア的な共同体の理想と、彼女と伯母が先住民の女性として旅先で遭遇し、ダンスが終わると再び立ち向かわなくてはならない厳しい社会的現実とのはざまで、作品を宙ぶらりんにする。

そのわずかな時間に姪と伯母は、一緒にターンし、足を宙に蹴り上げる。希望をのせて、そして自由に。

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映画『ファンシー・ダンス』公式トレイラー

Fancy Dance -- Official Trailer | Apple TV+


映画『ファンシー・ダンス』予告編/シネマトゥデイ



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