検事補のラスティ(中)は元不倫相手の殺人容疑で裁かれる立場に APPLE TV+

<原作小説を再解釈したジェイク・ギレンホール主演のアップルTVプラス版。時間制限に縛られないドラマ形式のおかげで、より多くの伏線やひねりが盛り込まれている(作品レビュー)>

ハリウッドではやりの「白人男性の迫害妄想」系映画の1つ──米作家スコット・トゥローのベストセラー小説を、アラン・J・パクラ監督が映画化した法廷ミステリー『推定無罪』は1990年の公開当時、そんな印象を与えた。

こうしたトレンドの「顔」だったのが、俳優マイケル・ダグラスだ。『危険な情事』(87年)で一夜の遊びのつもりだった相手にストーキングされ、『ディスクロージャー』(94年)で上司の女性からセクハラを受け、『氷の微笑』(92年)ではセクシーな連続殺人犯に脅かされる白人男性を演じていた。


ハリソン・フォードが主演した『推定無罪』は、より評判が高く上品だったが、前提となる設定は当時ならでは。

だから、有名プロデューサーのデービッド・ケリーが原作小説をアップルTVプラスのドラマとして新たに映像化するという決断は、それ自体がミステリーだった(6月12日から配信開始)。

原作も映画版も、ヒットしただけの理由があるのは確かだ。トゥロー作品の多くと同じく、物語はスイス製腕時計のように乱れなく進み、主人公のシカゴの地方検事補ラスティ・サビッチ(ジェイク・ギレンホール)を無慈悲なペンチのように締め付けていく。

その発端は、ラスティの同僚キャロリン・ポルヒーマス(レナーテ・レインスベ)が無残な他殺体で発見された事件だ。上司である地方検事レイモンド・ホーガン(ビル・キャンプ)は、ラスティが捜査を担当するよう主張する。

地方検事職の選挙が迫るなか、ホーガンは対立候補のニコ・デラ・ガーディア(O・T・ファグベンル)相手に苦戦中。仲間を襲った犯罪にも揺るがない姿勢をアピールするため、最優秀の部下を捜査に起用する必要があった。

最初のうち、ラスティはためらうが、自分以外の選択肢は才能で劣るトミー・モルト(ピーター・サースガード)だ。ラスティは会議で「私はトミーより優秀だ」と断言する。モルトの目に恨みが宿ることに気付かないまま......。

この人選の問題は、ラスティがキャロリンと不倫関係にあったことだ(2人は事件の数カ月前に別れていたが)。

ホーガンが選挙で敗れた後、デラ・ガーディアとモルトはラスティに攻撃の矛先を向ける。事件直前、キャロリンに執拗に連絡していたことが判明し、ラスティは殺人容疑で裁判にかけられる。

より時間に制限がないドラマ形式のおかげで、本作はより多くの偽の伏線やひねりを盛り込むことができている。さらに、物語の根底にある意味合いがアップデートされ、キャストも多様化している。

ラスティとバーバラは子供2人と恵まれた郊外生活を送っているが...... APPLE TV+

ラスティとキャロリンの不倫は人事面で最悪の事態だという点を、本作は少なくとも認識している(映画版では、キャロリンの死を知ったホーガンが「もったいない。あんなにセクシーな子だったのに」と発言する)。

主人公が犯した「罪」は

映画版では耐えるだけの主婦だったラスティの妻、バーバラ(ルース・ネッガ)も肉付けされている。画廊で働く彼女は、夫の逮捕が注目を集めたせいで仕事を失い、家族のために自分の人生を犠牲にしたこともほのめかされる。


とはいえ、なぜ彼女がそんな犠牲を払ったのか、疑問に思わずにいられない。本作でのラスティの夫としての生活は、穏やかで快適な郊外暮らしと職場のつまらない権力争いで色あせた灰色の世界だ。

検事が家宅捜索や性生活に関する尋問にさらされ、屈辱を受ける側になるのが、原作の巧みな設定だった。ドラマ版のラスティは、そのせいでさらに生気のない存在になる。

運命にほぼ抵抗しない姿、少しずつ明かされるキャロリンとの関係の真実──彼は本当に有罪かもしれないと思わせるよう、ドラマは仕向ける。

実際、殺人を犯したかどうかはともかく、彼は多くの点で「有罪」だ。最悪なのは、自らの苦悩が少なくともある程度まで自業自得だと、本人が分かっていることだろう。

そのため、本作には後悔の感情が漂う。それに対して原作と映画版では、キャロリンは計算高い野心家だ。80~90年代の一連のハリウッド映画は、職場に「侵略」する女性を不安視し、彼女たちが性的な力を利用するのではないかとの恐れに満ちていた。

映画版のキャロリンは超絶的に美しいが、ノルウェー映画『わたしは最悪。』(21年)で国際的に知られたレインスベはより親近感がある。ドラマ版でラスティの心を捉えるのは、虐待を受けた少女にキャロリンが示した思いやりだ。

悪役的立場のファグベンルとサースガードは、刺激剤として効いている。表面上、本作は殺人ミステリーだが、最も生き生きしてくるのは職場内の駆け引きに焦点を当てたとき。ファグベンルとサースガードが登場すれば、いつでもそうなるのだが。

残るは、エンディングの問題だ。原作と映画版の終幕は、当時の男性の妄想を容認する形になっていた。ドラマ版の最終回は、筆者ら批評家にもまだ公開されていないが、真犯人の正体が変更されていても不思議ではない。

本作は既に、大幅な設定変更を行っている。90年代以降の世界の変化を考えれば、あの悪名高いどんでん返しを考え直すのは、最も歓迎すべき「リメーク」ではないか。

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Apple TV+版『推定無罪』公式予告編

レインスベ主演、ノルウェー映画『わたしは最悪。』予告編

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