3月25日の大谷の会見には各国の報道陣約100人が詰めかけ、水原の代わりにウィル・アイアトンが通訳を務めた REUTERS VIDEO

<「あんなふうに、怒る一歩手前でノーマルじゃないな、という雰囲気の大谷は初めて見た」......現地記者たちが語る大谷会見のリアル(4/2発売の本誌『アメリカが見た 大谷の真実』特集号より)>

ドジャースの大谷翔平選手は3月25日(日本時間26日)、水原一平元通訳の違法スポーツ賭博をめぐる問題について会見を行った。この会見を、現地の記者たちはどう受け止めたのか。MLB(米大リーグ)取材歴18年で、ロサンゼルスを拠点にエンゼルス時代から大谷を取材してきた青池奈津子に27日(日本時間)、本誌・小暮聡子が聞いた。

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──25日の会見は、誰が呼びかけをして、どういう形で行われたのか。

エンゼルス時代には大谷選手に直接話しかけないようにと球団広報から言われていたため、特に日本メディアはなんとなく遠慮しているところがあるのだが、ドジャースに移籍後は少しずつ話しかけてみる人が出てきていた。今回は、韓国からロサンゼルスに帰ってきた日のクラブハウスで、アメリカ人記者2人が「いつ話をするのか?」と大谷選手に声をかけた。もともと取材用にクラブハウスが開放されている50分の間には大谷選手は戻ってこないと言われていたのが、何かを取りに来た様子で、米記者2人の問いかけに一瞬戸惑いながらも小さい声で「トゥモロー」と返答した。

大谷選手に話しかけた記者にその時の表情を聞いたところ、「話しかけられると思っていなかったようで、少し驚いた様子だった」と言っていた。周りで聞いていた記者たちも、そのやりとりに少し驚きながらも、ついにその時が来たと言わんばかりに「明日大谷が話す」とX(旧ツイッター)などで発信し始めた。

会見当日の朝にはドジャースの広報からメールが来て、「大谷は今日は質問は受け付けない、声明だけ出します」と。会見場には普段見かけないような記者まで大挙していた。アメリカのある経済紙の記者まで、「今これ以上に追うべきネタはない」と、大谷選手が話すまでいるつもりでニューヨークからこのネタを探りに飛んで来ていた。みんな、何が出てくるのか分からない、という心境で会見に臨んだ。

──質問を受け付けない形式についてアメリカの記者の反応は?

アメリカの記者たちに「質問できたら何を聞きたかった?」と聞いて回ったのだが、「それなりに大谷は答えた」「思った以上に答えた」という声を多く聞いた。気になっていた疑問に答える形で声明が準備されていた、ギャンブルは自分はやっていない、全く知らなかった、という話など。ただ、記者たちの声の約90%は、大谷選手が言っていることが本当なら水原さんはどうやって銀行口座にアクセスできたのか、そこがやっぱり気になった、という点に集約されていた。

3月24日の対エンゼルス戦に詰めかけた報道陣 KEITH BIRMINGHAMーMEDIANEWS GROUPーPASADENA STAR-NEWS/GETTY IMAGES

──大谷選手が言っていることを米記者たちは信じている様子だったか。

うのみにはしていない。会見での話は筋が通っているから納得はできるが、「もし、大谷が言っていることが真実ならば」という話し方だった。ただ、大谷選手の声明に万が一でも嘘があるかどうかと考えると、既に捜査が入っている状況ではよほど大丈夫だと確信しない限りはそんな声明は出さなかっただろう、と。なので「そういうことなのかな」という気持ちにシフトしているように感じた。その代わり、「誰かが嘘をついている」という思いはまだ拭い去れないようだった。

──会見での大谷選手の様子は。

真剣だった。普段の大谷選手はリラックスしている表情が多いので、「今日は言うんだ」という覚悟と、内容的につらいんだろうな、というのを感じさせる神妙な面持ちだった。怒りをあらわにする一歩手前くらいの、怒りをぐっとこらえた感じ、というか。米記者の中にも、「あんなふうに、怒る一歩手前でノーマルじゃないな、という雰囲気の大谷は初めて見た」と言っていた人がいた。

私が一番圧倒されたのは、ドジャースの面々が大谷選手に続いて会見室に入ってきたことだった。球団社長、ゼネラルマネジャー、編成部長ら球団幹部に監督、ベテラン選手2人など10人以上が大谷選手のすぐそばの壁側に並び、うなずくでもなく、真剣にじっと大谷選手を見ていて、しっかり見届けようという雰囲気だった。ドジャースとして、大谷選手をサポートしているところが見受けられた。

さらに驚いたのは、大谷選手がこの会見のすぐ後に、投球プログラムに出てきたこと。リハビリの次のステップがキャッチボールなど「投げる」ことだが、会見の本当に数分後にグラウンドに出て投げていた。大谷選手が投球プログラムを再開したというのはとても大きいニュースであり、報道陣は次に投げるのはいつなのかと待っていたので、それをこのタイミングで持ってきたか、と。

みんな会見対応で忙しく、会見後はすぐに原稿を書きに出て行ったので見逃している人もいて、「大谷が出てきた、嘘でしょ?」という動揺があった。あの状況で投球プログラムをやってみせてしまうところがすごいね、という声も上がっていた。

2023年8月、エンゼルス時代にホームランの兜をかぶる水原元通訳 RONALD MARTINEZS/GETTY IMAGES

──スポーツ専門局ESPNやロサンゼルス・タイムズ紙などは、違法賭博の話を少し前から追っていたと報じていたが、水原氏が解雇されたというニュースの前に、そのような話は聞いていたか。

聞いていない。2社以外、多くの記者が驚いていたし、水原さんにギャンブルの形跡も見えなかった。ただ、水原さんは昨季までエンゼルスでプレーしていたデービッド・フレッチャー選手(現ブレーブス傘下マイナー選手)と仲が良く、水原さんが違法賭博で関わったとされるマシュー・ボイヤーとはフレッチャー選手がきっかけで出会ったという話がいくつか出ている。フレッチャー選手はオフシーズンにはポーカーの大会に出ている選手なので、きっかけはその辺だったのだろうと、その話が出る前から想像していた。フレッチャー選手と水原さんが絡んでいるのはよく見かけていたので。

ただ、クラブハウス内で選手たちが遊びとしてポーカーなどのカードゲームをやっているのは何度も見たことがある。ドジャースだけでなく30球団どこでもやっていると思うし、クラブハウス内でのカードゲームを見かけることは、私がこれまで18年取材してきたなかで日常茶飯事。ポーカーをやるときにお金が発生しているかどうかまでは分からないが、記者らと話をするなかでは、ちょっとした賭け事というのはよくある話だよね、とみな口をそろえる。もちろん、やる人とやらない人がいるし、大谷選手は賭けはやっていないと私は信じるが、信じていないという記者も正直、何人かいた。

また、違法ブックメーカーが何百万ドルもの借金を許すはずがない、という声も聞く。もっと前の段階で止められているか、回収させられているか。それだけの巨額を賭けられたのは大谷本人だからじゃないか、という見方をしている人はいた。

──取材対応を含め、水原氏はこれまでどんな役割をしていた?

大谷選手には直接話しかけられないので、何かにつけて水原さんに頼ることはあった。「大谷選手、そろそろ帰りますか?」というようなことも聞いたり。基本的には、大谷選手の隣にいるときに挨拶をするとか、その辺にいる水原さんをつかまえて話しかける。水原さんはたばこを吸うので、よくこっそり廊下を歩いていたりするから(笑)、そのタイミングで話しかけたりしていた。

水原さん自身にインタビューをしたりコメントを取ることもあった。以前、大谷選手に取材依頼をする際に「大谷選手のマネジメントに連絡したほうがいいですか」と水原さんに聞いたところ、「どうせ僕のほうに言われるので僕でいいです」と言われたことがあり、水原さんを通すようにしていたが、結局一度も取材依頼に対する返事はなく、いま考えると、ちゃんと言ってくれてなかったのではないか、と思ったりはする。

水原の姿が消えたドジャースのベンチ(3月24日) JASON ARMONDーLOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES

──今回の件を、これまで大谷選手を取材してきた立場としてどう受け止めている?

水原さんは通訳能力も高かったし、大谷選手の影武者ではないが、縁の下の力持ちだった。これまでのMLB取材で多くの日本人選手を見てきて、彼らはみんな通訳が必要であるというなかで、あの2人の関係性や、水原さんのサポート能力は素晴らしかったと、今でも思う。

今日もエンゼルスの選手や関係者と、「大谷選手の成功の裏には一平さんがいるよね」という話になったり......。今回はまさかのとても悲しい事態になってしまったが、水原さんが果たした役割は大きいと多くの人が思っている。人としても、すごくいいキャラクターだったんじゃないかなと思う。大谷選手は結構シニカルなのだが、水原さんはいじられキャラだった。

私自身は、まだどこか信じたくない気持ちだ。大谷選手はもちろんすごいのだが、本当に、2人で1人みたいな2人だったので。広いグラウンド上で大谷選手を探したければ水原さんを探せ、というくらいいつも一緒だった。なので今回の件は正直なところ、とても心が痛い。真実がどっちというよりも、あの2人がきっともう戻ることはないだろうというのが悲しい。

もし本当に大谷選手が言ったように、盗んだとかだましていたということならば、人を信じられなくなりそうだ。人を陥れるような人にはとても見えなかったし、大谷選手の好印象もそうだが、水原さんにも悪印象というものがまるでなかった。

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