女子高生たちは模擬選挙や模擬裁判で自らの考えをアピールするが…… APPLE TV+-SLATE

<中絶の権利をめぐる裁判を背景に進む模擬選挙。男子版との違いは気になるが、敗北を糧にして前を向く次世代の女性の強さを感じる>

アップルTVプラスで配信中のドキュメンタリー映画『ガールズ・ステイト』のタイトルを見て、2020年の『ボーイズ・ステイト』の女子版かと思う人は多いだろう。

『ボーイズ』は、トランプ政権時代のテキサス州で、男子高校生が集まって模擬選挙を行う話だった。だが姉妹編である今作での少女たちの体験は、それとはだいぶ違う(制作・監督は同じジェシー・モスとアマンダ・マクベイン)。

この模擬選挙は毎年、アメリカ在郷軍人会の主催で行われているイベントだ。今作の撮影が行われた22年夏のミズーリ州では、セントルイス郊外の大学キャンパスで男女同時に開催された。ところが内容には男女で違いがあった。

男子は好きに出歩くことが認められているのに、女子は友達と一緒でなければ寮の外に出ることは許されない。男子のほうには実際に選挙で選ばれて公職に就いている人々が訪れて講演をしてくれるのに、女子は歌を習ったりみんなで体操をしたり......。

テキサス州とミズーリ州という土地柄の違いもあるのだろうが、『ボーイズ』で男の子たちが自信たっぷりに「僕は右派のリバタリアンだ」などとアピールしていたのに比べると、今作に出てくる女の子たちの自己主張はずいぶんとソフトだ。

活発なブロンドのエミリーは、これを自分の政治志向を公表する機会にすると決意を語るが、実際の言い方はこうだ。「私はどちらかというと保守のほう」

またテキサスに比べるとミズーリは進歩主義的な印象だ。前作のメキシコ系のスティーブンと違い、今作のナイジェリア系のトチがあからさまな人種差別に遭うことはない。

負けても立ち上がる強さ

次世代の政治指導者を目指す若い女性たちが前向きに頑張っている姿にはほっとさせられる。だがこのイベントが行われていたのは、人工妊娠中絶を選ぶ権利を制限するミシシッピ州法の合憲性をめぐる連邦最高裁判決の直前だった。

既に多数派判事の意見書の草稿がリークされて報道されており、中絶を選択する権利を認めた1973年の判決を覆す内容となっていた。

何世代にもわたって積み上げてきた進歩があっという間になかったことにされてしまう事態だ。そんななかで若い人々に未来への希望を吹き込むことの意義は何だろうと思わずにはいられない。

州知事などのポストをめぐりしのぎを削る以上、敗者は生まれる。だが登場人物の中で最も魅力的なのは、勝者にはならなかったがめげることなく、再び立ち上がり前進する道を見つけた少女たちだ。

彼女たちは自分が通う学校では成績トップのスーパースター的存在なのに、同じように優秀な生徒ばかりが集まるなかで完敗を喫し、味わったことがないような感情を乗り越えなければならなくなる。

敗北を糧にし、戦うべき新たな戦いを見つけるのは、単に勝つよりも気骨が必要だ。

彼女たちが中絶問題について意見を交わす様子や、模擬最高裁で中絶の権利を取り上げる場面は、中絶という国民の権利が失われた最高裁判決を追体験しているようで見ていてつらかった。でも彼女たちは前を向いて進み続ける。その姿には尊敬の念を抱かずにはいられない。

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