全てを奪われたフュリオサは怒りを燃やして最強の戦士に成長する ©2024 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
<「ウジ虫のマッシュとゴキブリの配給を2倍にしてくれ」陽気なグロテスクさに満ちた荒野で生きるフュリオサを応援せずにはいられない>
ジョージ・ミラー監督が1979~85年に送り出した「マッドマックス」3部作と、30年後の2015年に公開された第4作『マッドマックス怒りのデス・ロード』は、批評家からも観客からも大喝采で迎えられた。
そのミラーが、猛スピードでカーチェイスを繰り広げるアクション映画に戻ってきた(90~00年代は『ベイブ/都会へ行く』『ハッピーフィート』など家族向け作品が中心だった)。
この数十年、大量生産される娯楽映画にはディストピアがあふれ、「悪い未来」の概念から想像力が失われた。視界不良な地下壕。ボロボロの服を着た主人公が、爆撃で焼け野原になった街や、乗り捨てられた車で埋まった高速道路を歩き回る。「悪い未来」はどれも同じように見えた。
ミラーの描く「ウェイストランド(荒野)」は全く異なる。この世のものとは思えない非現実さとウイットにあふれた色鮮やかなディストピアだ。『怒りのデス・ロード』はナミビアの砂漠で、最新作の『マッドマックス:フュリオサ』はオーストラリアの深紅の砂漠で撮影された。
人間の大腿骨に叫ぶ顔を彫刻したスティックシフト。第1次大戦で使われたガスマスクを股間にイチジクの葉のようにくくり付けた悪役。
人間の頭蓋骨で作ったヘルメット。ミラーが描くスチームパンク(英ビクトリア朝と近未来のテクノロジーを融合させたスタイル)の未来は、無法な残酷さと底知れぬ人間の苦悩の場所かもしれないが、見た目はとにかくカッコいい。
シリーズ5作目となる『フュリオサ』は、前作から時をさかのぼる。『怒りのデス・ロード』の最強の戦士フュリオサが、トラウマを抱えたプレティーンの少女(アリラ・ブラウン)から、復讐に燃える20代半ばの女性(アニャ・テイラー=ジョイ)に成長するまでの約15年を描く2時間半の大作だ。
『怒りのデス・ロード』でシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサは丸刈りで、顔の上半分に塗った黒いグリースの下で復讐に燃える険しい表情を見せ、失った左腕に機械のアームを装着している。
『フュリオサ』はヒロイン誕生の物語だ。当のヒロインには、そんな物語は必要なかったのだろうが。
白塗りの武装集団ウォーボーイズ ©2024 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.派手で陽気なグロテスク
今回は『怒りのデス・ロード』のように圧縮された簡潔なストーリーテリングとノンストップの展開こそないが、「マッドマックス」シリーズのもう1つの特徴である常軌を逸した美術とスリリングなアクションに関しては、一切手を抜いていない。
フォルクスワーゲンのキャンピングカーのルーフトップをボディーに溶接したマッスルカーが、スズ細工やクロームめっきの巨大な頭蓋骨でド派手に飾り立てた「ウォー・リグ」と砂漠でカーチェイスを繰り広げる。
車、バイク、パラセール、スケートボードのようなギミックに乗った十数人が一度に登場するスタントシーンは壮観だ。
「マッドマックス」シリーズはコミックが原作ではないが、エネルギー論と物理学を凌駕するコミック流のマニアックな空間理論を踏襲している。
『フュリオサ』の最初の1時間以上は、主人公の幼少期に焦点を当てる。母権社会のオアシス「グリーン・プレイス(緑の地)」で育ったフュリオサは、10歳頃にバイカー軍団に誘拐される。
彼らはフュリオサを不気味な暴君、ディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)に引き渡し、ディメンタスは彼女に執着して、恐ろしい蛮行を目撃させる。
資源が枯渇した世界で豊富な食料と水を持つ「グリーン・プレイス」がどこにあるのか、フュリオサは決して口を割らない。しかし、栄養たっぷりに育った健康的な子供である彼女は、その存在自体が貴重な財産となっている。
ディメンタスがウェイストランドの絶対的支配者イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)にフュリオサを引き渡した後、彼女は逃亡して復讐を果たす計画を練る。
追っ手から逃れるフュリオサを、私たちは応援せずにいられない。彼女に共感して仲間に加わる警護隊長ジャック(トム・バーク)。サディスティックでうぬぼれが強く、しかし妙に彼女を意識しているディメンタスと対峙するクライマックス。
もっとも、冗長でわざとらしく感じられる場面も多く、唐突なスローダウンがあるなど、どこか物足りないところもある。
前作より長い上映時間を細かい人物描写に無駄遣いせずに(例えば、フュリオサとジャックのロマンチックなつながりは暗示されるだけで、それ以上の説明はない)、フュオリサの誰にも止められない復讐心など、もっと核心を掘り下げてほしかった。
フュリオサの宿敵となるディメンタス将軍(中央)の狂気 ©2024 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.今春79歳になったミラーは、既に「第6章」を構想している。ウェイストランドの世界観は40年以上の間、彼の頭の中で生き続けている。一本の作品の成否で、壮大な世界観を語り尽くすことを否定するのは罪というものだ。
『フュリオサ』の中で、下っ端の戦士が待遇改善を求めて上官と交渉し「ウジ虫のマッシュとゴキブリの配給を2倍にしてくれ」と要求する。このセリフの陽気なグロテスクさにこそ、「マッドマックス」の世界からまた新作が生まれるという期待を感じる。
完璧である必要はないし、間違いなく奇妙で特異な世界になるだろうが、今回の2時間半を終えても、私はまだ「お代わり」が欲しい。
©2024 The Slate Group
FURIOSA: A MAD MAX SAG
『マッドマックス:フュリオサ』
監督/ジョージ・ミラー
主演/アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワーズ
日本公開中
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。