第82期名人戦七番勝負の第5局。記者の質問に答える立会の屋敷伸之九段=北海道紋別市のホテルオホーツクパレスで2024年5月26日午前9時51分、貝塚太一撮影

 北海道紋別市のホテルオホーツクパレスで26日始まった第82期名人戦七番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催)の第5局。前局でカド番をしのいだ挑戦者の豊島将之九段(34)が四間飛車に振り、藤井聡太名人(21)は居飛車で対抗した。名人戦七番勝負で振り飛車が指されたのは2011年の第69期名人戦第3局で挑戦者の森内俊之九段に対し羽生善治名人(当時)が中飛車に振って以来13年ぶり。後がない戦いが続く豊島九段の振り飛車に、控室では「振った」と歓声が上がった。立会の屋敷伸之九段は「豊島九段が本当に飛車を振るのか関心が高かった。作戦を練りに練ってきた感じがする」と熱戦への期待を語った。

 紋別市は広瀬章人九段、野月浩貴八段の2人の副立会の師匠である勝浦修九段の出身地。札幌市出身の屋敷九段にとっても「大先輩で師匠格といっていい素晴らしい先生。最高峰の舞台で(立会の)役割をいただけるのは光栄で、身が引き締まる思い」と話す。

 屋敷九段といえば1990年、18歳6カ月で当時の中原誠棋聖から初タイトルを奪取し、藤井名人に抜かれるまでタイトル獲得の最年少記録となっていた。「自分のときは力以上に運の良さが働いた。藤井名人の場合は、タイトル獲得は時間の問題だと思っていたが、初めてのタイトル戦の相手は渡辺明九段(当時棋聖)だったので、大変だと思っていた。タイトルを獲得してからは風格も第一人者の貫禄が備わってきたと感じている」と語る。

 一方、豊島九段の最近の棋風改造については、「勇気ある決断。藤井名人と数々の激戦を繰り広げ、いろいろ考えて今に至っているのだろう」と推察。今期の七番勝負についても、「豊島九段が毎局、工夫をし、策を凝らしている。定跡形より力戦に持ち込んで、力と力の勝負で戦いたいという意志を感じる。藤井名人も最強の指し手で迎え撃っている」と評する。

 第4局まで相居飛車の戦いが続いたが、第5局で挑戦者がついに飛車を振った。シリーズ前の取材に「振り飛車で挑むのは(藤井名人が振り飛車党の菅井竜也八段相手に3連覇した)王将戦を見ると大変だなという気持ちもあります」と答えていただけに、強い意志が感じられる。屋敷九段は「進行次第だが、豊島九段は何か指したい形があるのだろうと見ている。藤井名人も長考せずに応じているので、ある程度想定はしていた感じはする。最近はいろんな振り飛車が進化しており、どちらも出方をうかがいながら、どんな作戦でいくのか見どころだ」と話した。

【新土居仁昌、丸山進】

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