日本復帰前の沖縄を舞台に、米軍基地から物資を奪う“戦果アギヤー”と呼ばれた若者たちを描く真藤順丈さんの小説「宝島」が俳優の妻夫木聡さん主演で映画化される。妻夫木さんは「沖縄には、いまだ続いている問題がたくさんあります。みんなの言葉にならない声を芝居に変えて伝えていくことが、この作品に導かれた僕の使命だと思っています」とのコメントを発表した。2025年公開予定。出演は他に、広瀬すずさん、窪田正孝さん、永山瑛太さんら。監督は「るろうに剣心」シリーズなどをヒットさせた大友啓史さんが務める。

映画「宝島」に出演する(右上から時計回りに)妻夫木聡さん、永山瑛太さん、窪田正孝さん、広瀬すずさん(提供)  

 妻夫木さんは戦果アギヤー仲間のリーダーの痕跡を追う「グスク」を演じる。06年の映画「涙そうそう」にも主演した妻夫木さんは「再びコザを舞台にしたこの作品でグスクを演じることに運命を感じている」。NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」も手がけた大友監督は「私たちが記憶の底で、遺伝子の隅々まで忘れてはいけない物語が確実に存在する。戦後の沖縄を舞台に描かれる『宝島』は、まさにそんな類の物語だ」と捉えている。

 「宝島」は第160回直木賞、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞した。原作者の真藤さんは「沖縄人たちが死に物狂いで獲得してきたもの、払われた犠牲、暗闇の奥から差しだしてくれている祈りの手を、映画という形でつかみ返してくれるはずだ」と期待した。

原作小説「宝島」(上巻)©️真藤順丈/講談社

妻夫木聡さん(グスク役)

言葉にならない声を芝居に変える

 この作品のために長い間準備をしてきました。コロナで延期もあり、途中もう無理かもしれないと思う時もありましたが、まさに「宝島」の主人公たちと同じように一縷(いちる)の望みにしがみついて、監督、スタッフ、キャストと共にようやくここまで来ました。満を持して、今撮影に挑めていることに、この上ない幸福感を毎日かみ締めております。

 映画 「涙そうそう」でも、このコザという街が舞台でした。あの素晴らしい出会いから18年、再びコザを舞台にしたこの作品でグスクを演じることに運命を感じています。沖縄には、いまだ続いている問題がたくさんあります。みんなの言葉にならない声を芝居に変えて伝えていくことが、この作品に導かれた僕の使命だと思っています。僕はこの「宝島」をただの映画で終わらせたくありません。人の心を突き動かすことは容易ではありませんが、今を生きる私たちがどうあるべきか、どう生きていくのか、一緒に考えていきたい。映画という枠を超えて一つになれる、この映画にはその力があると信じています。最後まで覚悟を持ってみんなで突き進んでいきたいと思います。

広瀬すずさん(ヤマコ役)

ヤマコはみんなの希望 全力で演じたい

 脚本を初めて読んだ時、こりゃ大変だぞと思いました。スケールが大きく、言葉の掛け合いや感情のぶつかり合いなど、現場でどんな空気が生まれるのか楽しみでした。またクランクインの前に監督が「この作品では太陽でいてほしい」とおっしゃってくださったのがストレートに自分に届き、ヤマコはみんなの希望になっていいんだと、全力で演じたいと思いました。

 まだ撮影の半ばですが、これまで、監督が本当にわかりやすく興奮されてる姿をたくさん見て、元気をもらえています。段取りから監督・キャストが話し合って作り上げていくシーンたちはとても濃厚で、地方に長くいたこともあって、みんな家族のような温かさと、信頼が生まれている現場です。お芝居に没頭できるような環境を作ってくださってとても居心地がいいです。エネルギーを吸い取られるほどのチームの熱量は、映画にそのまま映るような気がしていて、私自身も既に完成が楽しみです。

 まだまだ撮影はありますが、身を引き締めて向き合いたいなと思います。

大友啓史さん(監督)

全ての人に向けて「諦めるな、生きろ」

 「諦めるな、何が何でも生きろ」と、全ての人の背中に向けて、そう問いかけているかのような。原作を初めて読んだ時に浴びた熱量の渦、その火照りがいまだ冷めずにいる。映像化を志して既に数年。準備を続ける中でコロナ禍に襲われ、何度も立ち止まり。その都度僕は、原作から受け止めたメッセージを自分に言い聞かせ、それを胸の奥でかみ締めながら前に進んできた。

 「諦めるな、生きろ」と。

 時代はいつしか平成から令和に変わったけれど、それでも私たちが記憶の底で、遺伝子の隅々まで忘れてはいけない物語が確実に存在する。戦後の沖縄を舞台に描かれる「宝島」は、まさにそんな類の物語だ。

 蛮勇にも近いこの冒険に集まってくれた俳優・スタッフたちと力を合わせ、多くの人に希望と勇気を感じていただけるような、そんな作品を粘り強く作り上げたい。そして、グスク、レイ、ヤマコ、オンら劇中の魅力的な登場人物たちと共に、熱気あふれるあの時代を最後まで全力で駆け抜けたい、そう思います。

真藤順丈さん(原作者)

 あらゆる近現代の物語は“沖縄”に通じるーそう信じてコザのセンター通りでほぼ路上生活を送りながら構想を固めていた頃は、本作を映像化しようという蛮勇がこの国の映画界に残っているとは思ってもみなかった。

 たくさんのご厚意にあずかって、沖縄のロケやスタジオ撮影を訪ねる機会に恵まれたが、そこでさらに確信を深めることができた。大友啓史監督をはじめとする傑(すぐ)れたスタッフや俳優陣が立ち働く現場には、戦後日本の“青春時代”ともいえる「宝島」の時代が現前していた。

 現場の袖には当時の資料写真が配され、美術や装飾によって風景は時間をさかのぼり、照明がほの暗い世相の陰と陽をさばき、モブの一人にまで注がれる演出のはざまを自在にカメラの目が抜けていく。ぶっちゃけ作り手として羨望(せんぼう)や嫉妬をおぼえるほどの(この現場でぼくが「宝島」を撮りたいとすら願った。S・キングの「シャイニング」になりそうだからやめておくけど)とめどない現場の熱が、おなじ地平の、おなじ方向へと向かっている。

 この作品ならきっと、沖縄人たちが死に物狂いで獲得してきたもの、払われた犠牲、暗闇の奥から差しだしてくれている祈りの手を、映画という形でつかみ返してくれるはずだ。なおかつ、凋落(ちょうらく)するエンタメ産業にひとつの革新的な“解”をも示してくれるだろう。

 以上、原作者のひいき目抜きには語れませんけどね、これはとんでもないところまで到達する邦画になる。一人の映画ファンとして上映館で「あきさみよう!」とわななくような昂揚と歓喜をおぼえる日を心待ちにしています。

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