生田斗真さん
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 「劇団☆新感線」の人気シリーズ、いのうえ歌舞伎の最新作「バサラオ」(作・中島かずきさん、演出・いのうえひでのりさん)が7~10月、福岡(博多座)、東京(明治座)、大阪(フェスティバルホール)の3都市で上演される。公演に先立ち、主演を務める生田斗真さん(39)、出演の中村倫也さん(37)、新感線主宰の演出家、いのうえひでのりさん(64)の3人が福岡市内で記者会見に臨み、意気込みを語った。

博多座でリベンジ誓う

 生田さんは公演のスタート地・博多座には特別な思いがある。2020年4月、いのうえ歌舞伎「偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)」の座長(主演)として、博多座に初登場する予定が、新型コロナウイルス禍で全公演が中止に追い込まれたからだ。

 「(そのことが)ずっと頭の中に引っかかっていました。会えるはずだったお客さんと会えなかった。博多座の方々も一緒に悔し泣きしてくれたことが心に残っています。あの時の悔しさを晴らしたい」。個人的に好きな劇場として挙げ、プライベートで何度も歌舞伎を観劇している博多座でのリベンジを誓う。

 今回挑むいのうえ歌舞伎は、笑いが満載の「ネタもの」、ロックの楽曲を生バンドで演奏する「R」と並ぶ新感線の3大シリーズの一つ。いのうえさん流の時代劇で、大掛かりな装置、華やかな衣装を用い、スペクタクルに富んだ劇が展開する。見せ場で俳優がポーズ(みえ)を決めるなど、歌舞伎的な演出が盛り込まれているのが特徴だ。次代の歌舞伎界を担う十代目松本幸四郎さんもファンとして知られ、いのうえ歌舞伎に出演している(当時は七代目市川染五郎)。

記者会見に臨む(左から)いのうえひでのりさん、生田斗真さん、中村倫也さん=福岡市博多区で2024年5月7日、渡辺亮一撮影
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 「バサラオ」は幕府と帝(みかど)が相争う混乱の時代の島国「ヒノモト」が舞台。美貌を武器に天下取りをたくらむ男・ヒュウガ(生田さん)、幕府の元密偵で、知略にたけた参謀としてヒュウガを支える謎の男・カイリ(中村さん)がコンビを組み、流刑の身だった天子・ゴノミカド(古田新太さん)を担いで京の街を幕府から奪い返す。歌あり、ダンスあり、大立ち回りありのエンターテインメント。悪役のキャラクターが躍動する。新感線の座付き作家、中島かずきさん(64)は顔がいいだけで世界征服の野望を抱く男が出てくるマンガ「ジャパッシュ」(望月三起也さん著)を子供のころに読んだ。同作に着想を得、生田さんならこのストーリーが成立すると考え、執筆したのが「バサラオ」だ。

悪の限り尽くす主人公

 いのうえさんは「裏切りや反逆、陰謀が渦巻く話です。元々僕は悪いやつが好きで」。コロナ禍ではこうしたテイストの作品は避けてきたが、「やっと帰ってきました。主人公は悪の限りを尽くします。(劇中で)悪いことが思う存分できる。ピカレスクロマンが好きな方はハマっていただけると思います」。

 生田さんが高校生時代、初めて出演した新感線の舞台が「スサノオ~神の剣の物語」(02年)だった。主人公の悪者を演じたのは松岡昌宏さん。「そのときから、自分もいつかは新感線で悪役をやりたいと思っていました。願いがかない、感慨深い」と生田さん。役を演じるにあたり、「新感線が描く悪は触れてはいけないもの。その感じが出せたら。美しさが武器であることにも説得力を持たせたい」。

 相棒役の中村さんとは新感線の「Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~」(16年)での共演を機に親しくなり、食事やゴルフに一緒に出かける間柄だ。中村さんの印象を問われると、「腹が立つぐらいに馬力があり、歌も踊りも芝居もできる。信頼し、尊敬しています」。

 中村さんは「会見での褒め合いって恥ずかしいですよね」と報道陣の笑いを誘いつつ、「斗真君の作ってきた物(作品)を見て、線が太くなったと感じます」。役と自身の重なる部分について尋ねられると、「10代のころから、何を考えているのか分からないとは言われていました」と答えた。役作りに関しては「カイリは物語を運ぶ役割もあります。どこか不穏なところは残したい」。

新感線は毎日が運動会

 生田さんは映画やテレビドラマなど、映像のイメージが強いが、舞台のキャリアも豊富。「世界に自分が立っている喜びを感じさせてくれるのが演劇」と言う。数ある劇団の中でも新感線に対しては「高校生の時、演劇を一から教えてもらった。僕にとっては実家のような劇団」と格別な思いを抱いている。これまでに4作品に出演。準レギュラー的存在で、いのうえさんの信頼も厚い。

 「バサラオ」公演は3カ月を超える長丁場。その間、他の活動は制約されるが、出演オファーを断る選択肢はなかった。「新感線の舞台は運動会、お祭りの中にいる感覚です。みんなで一日一日を乗り切り、達成感を積み重ねるところが、出演する身としては魅力です」。生田さんの生誕39年を祝うサンキュー公演でもある。「(10月7日が誕生日で)39歳から40歳になり、“年またぎ”を『バサラオ』で迎えます。新感線はホームだと思っているので、中途半端なことはできません」と表情を引き締めた。

 新感線の看板俳優、古田さんをはじめ、西野七瀬さん、りょうさんら、メインキャストの顔触れは豪華。新感線のメンバーでは粟根まことさんが重要な役を演じる。

 大阪芸術大舞台芸術学科の学生が中心になり、1980年に旗揚げされた新感線。つかこうへいさん作「熱海殺人事件」が第1回公演で、88年には東京の劇場に初進出した。今や押しも押されもせぬ国内トップクラスの人気劇団として、多くの演劇ファンに支持されている。演出と作でタッグを組むいのうえさん、中島さんは共に福岡県出身の同学年。演劇を通し、高校時代から互いを知る。「偽義経~」の経緯を踏まえ、博多座で幕を開ける娯楽大作「バサラオ」に期待したい。

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 日程は次の通り。博多座=7月7日~8月2日▽明治座=8月12日~9月26日▽フェスティバルホール=10月5~17日。詳細は公式サイト(http://www.vi-shinkansen.co.jp/basarao/)から。【渡辺亮一】

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